飛行機が船の運用から受け継がれているものが多い理由

旅客機に乗る時、乗客は飛行機の左側のドアから搭乗します。これがなぜか考えたことがある人はいるでしょうか?

普通は気にするようなことはせず、「そんなものか」と流してしまうようなことだと思います。しかし、実はこれ、ちゃんとした理由、というか由来があります。

ライト兄弟による人類史上初の有人飛行の成功は1903年12月17日でした。飛行機の歴史はそこを起点としても100年程度しかありません。

飛行機が実用化され、様々な分野で利用されるようになったとき、飛行機の運用に関わる用語は船舶用語から拝借されました。100年程度の歴史しかない飛行機に比べ、船舶は紀元前から使われてきており、運用に関わる用語も充実していたので当然といえるでしょう。

我々素人は飛行機は飛行機と呼ぶものですが、実は航空業界では飛行機そのものを「ship」と呼んでいます。そして、客席のことを「キャビン」と呼ぶのも船舶からの借用。飛行機が発着する場所を「airport」と呼ぶのも、もちろん「port=港」から来ています。

ちなみに日本ではairportを直訳的に「空港」と呼んでいますが、中国では「機場」と呼びます。これは船舶に馴染みがある海洋国と、内陸国との感覚の違いかもしれません。

さて、旅客機の搭乗口が左側にある理由です。西洋における船の運用では、船の左側を接岸するという習慣がありました。そのため船の左側をポートサイドと呼びます。これは、かつて手漕ぎ船の時代には舵が船尾の右側に取り付けられていたので、それを港の沿岸にぶつけないようにするためでした。

造船技術が発達して、船の船尾中央に舵が付けられるようになってからも、左側を接岸させる習慣は残りました。そして、旅客機もこの習慣を継承しているわけです。つまり、用語を船舶関連から拝借すると同時に、運用の習慣も拝借するようになっているのですね。

ただし、旅客機の場合は左側だけに扉があるわけではなく、慣習上、あるいは空港のボーディングブリッジの構造上、原則として左側を使うことになっているとはいえ、緊急時などには右側の扉を使う場合もあります。

航空機は、さらに重要なものを船舶の運用から受け継ぎました。それは速度や距離などの実際の運行のための単位。

まず距離は「マイル」が使われます。実はマイルという単位には陸上用と海上用の二種類があります。陸上用マイルはKmに換算すると約1.6Km、海上用は約1.85Kmです。海上用のマイルは「ノーティカルマイル」と呼ばれます。

船舶関連から単位を受け継いだ航空機でも、距離は「ノーティカルマイル」を使っています。距離の単位が違うと当然速度の単位も違ってきます。

ノーティカルマイルを基準とした速度の単位は「ノット」です。1時間に1ノーティカルマイルを進む速度が1ノットとなります。ただし、近年ではジェット機の飛行速度は主にマッハで表わされています。

ちなみに、最新鋭ジェット旅客機の最大航続距離は、ボーイング787-8が8,500ノーティカルマイル(15,700Km)、エアバス380が8,200ノーティカルマイル(15,200Km)です。

ところで、ニュースや映画などで夜間の空港が映されるようなときに、飛行機のいろんな部分が点滅するのを見た記憶はないでしょうか?飛行機の翼には、左側に赤、右側に緑のライトが取り付けられています。これはナビゲーションライトといいます。

飛行機はマッハの速度で飛んでいます。もし空中で、特に夜間に他の飛行機と接近したというときには、衝突を避けるためにまずその飛行機がどちらを向いて飛んでいるかを確定しなければなりません。ナビゲーションライトは左右別の色のライトを使うことで、一目で飛行機の向きを見分けられるためについています。

ナビゲーションライトもまた、船舶が夜間航行中に衝突を避けるためにつけている「舷灯」が元になっています。左が赤、右が緑なのも舷灯と同じです。

航空機が100年あまりの間にこれだけ普及することができたのは、歴史が長い船舶の成熟したルールや用語といった統一規格をそのまま流用できたおかげもあるかもしれません。ゼロから世界統一規格を作り出す苦労は航空業界にはありませんでした。

航空業界が船舶業界から受け継いだのは、実用的な単位や用語などだけではありません。西洋では古くは古代ギリシア文明のころから入港する船に水をかけて歓迎の意を示すという習慣があり、その後港の前に2隻の船を並べてアーチ状に放水した下をくぐるというように変化しました。

航空業界はこの「放水アーチ」と呼ばれる習慣も受け継いでおり、新しい空港が開港したときに初めて到着した飛行機や、新しく就航した飛行機が到着したときなどに、消防車などが放水して歓迎します。

日本では、ソチオリンピックの選手団が帰国したおりに、成田空港に到着した選手団が乗る飛行機に放水アーチが行われたのが話題になりました。

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