妻が妊娠中だった場合、旅客機での旅行をしてもよいか?

「妻が妊娠中なのだが、旅客機での旅行をしてもよいか?」というご質問にお答えします。

<妊婦は旅客機で旅行してよいか>

妊婦の航空機での旅行は、基本的に問題ありません。

ですが、医師の側からは積極的にはおすすめしておりません。

女性の妊娠中の体調の変化については、地上でずっとすごしていたとしても、妊娠から出産までの間、なにが起きるか判らないのが現実なのです。思いもよらない、予想外の何かが起きるかも知れない。実はまったく何の問題もないかもしれない。

まして旅客機という特殊な環境です。

旅客機に乗っていて感じるのは、離着陸時に耳が痛いとか、空気が乾いているとか・・・でも、せいぜい、それくらいのこと。機内と地上はたいして変わりない、ほぼ同じ環境であるかのように感じられます。

でも実は、旅客機の機内と地上の違いは、私たちが自分の五感で感じているよりも、はるかに大きいのです。

基本的には問題ないが、医師の側からはおすすめしないというのは、そこです。

まずは担当の医師にご相談されることをおすすめします。奥さまが今の体調で旅客機に搭乗してよいかどうか、最善の判断ができるのは、担当の医師だと思います。それに妊娠の時期によっては、航空会社に対し医師の診断書などを提出することが必要です。医師自身の同乗が必要な場合もあります。

まず、旅客機の機内と地上との違いについて、申し上げます。

<高度について>

旅客機が飛ぶのは、およそ高度1万メートルです。機内にいると感じませんが、飛行機の窓から見える外界の空気は、マイナス数十度の極寒です。

仮に飛行機の壁にヒビが入ったとして、そこから機内へマイナス数十度の空気が吹き込んできます。飛行機の飛んでいる上空というのは、そういうものです。なんともないのは機内に与圧してあったり、空調があるからです。

<気圧について>

旅客機が滑走路から離陸すると、一気に高度を上げ、そのために気圧が変化します。旅客機が水平飛行に入ると、機内の気圧は0.8気圧前後。これは、標高約2000mの山と同じ気圧です。

気圧が低下した影響で、人の体内にあるガスは膨張します。人によっては航空中耳炎を起こすのも、それが原因です。気圧の低下が人体に与える影響は他にもありますが、医師に確認したほうが正確だと思います。

<湿度について>

最近はエコノミー症候群がすっかりメジャーな話題になりましたから、旅客機内の乾燥、つまり湿度の低さについては、すでにご存じのことと思います。

旅客機の機内の湿度は10~20パーセント、エコノミー症候群を引き起こす原因の一つがこれです。健康になんの問題もない人であっても、エコノミー症候群にならないとしても、機内の乾いた空気は負担です。目やのどの乾き、口や鼻の痛みを感じる人もいます。

だから乗客にはこの空気の乾燥は非常に不評なのですが、旅客機の性能を維持するためには、湿度の低さは必要なのです。

湿度が普通だったら?

飛行機まるごと、部品などにサビが発生してしまうのです。

もちろん、妊婦だったらエコノミー症候群は心配しなくていいとはなりません。妊娠中の急な体調の変化に関する配慮と、エコノミー症候群に関する配慮と、フライト中の機内では、奥様はその両方を心配しなければなりません。

<酸素濃度と、妊娠の時期について>

それと、機内の空気中の酸素の圧力が地上の約80%となります。

「酸素が地上の8割しかない」という考え方でよいと思います。

この酸素不足については、航空会社のサイトにも記載されています。妊娠後期の妊婦や新生児にとっては、あまり良くない環境だそうです。

そうでなくとも、出産間近になった妊娠後期はトラブルが起こりやすい時期です。小さなきっかけで出産が早まってしまったり、母子に大きな負担をかけることになります。医師の側から言わせれば、後期だけはやめておいた方がよいかもしれません。

それと、これは余計すぎる心配じゃないかとは思いますが、もし海外旅行で出産が早まった場合・・・

出産したのが米国やカナダだと、法律によって、生まれた子どもに対して、それぞれの国の国籍が与えられます。ですから先手を打って、妊娠六ヵ月をすぎた妊婦の入国を認めない国もあります。あとあと、問題になるからです。

ご旅行でどちらに行かれるのかを伺っていませんが、海外旅行の場合は、目的地の妊婦に関しての法制度を、航空会社や外務省に確認したほうがよいと思います。

かといって、妊娠初期もどうかと思います。そうでなくとも流産を警戒しなければならない時期です。つわりには個人差がありますが、つわりが軽い場合でも、飛行機旅行というのは・・・どうなんでしょう。

それと、離着陸時や気流の不安定な場所を通過したときに飛行機が揺れますが、あれも女性には負担です。

女性のほとんどが、どれくらいどのように旅客機が揺れたら危険なのか、知識がありません。乱気流などによって、たまたま起きた小さな揺れであっても、今この瞬間に墜落が始まったのかもと思ってしまい、非常に怖ろしく感じるそうです。

フライト中の旅客機内にいる限り、そういう小さな振動はいつでも突発的に起こりえます。もちろん予告なしで。妊娠中の女性が、そういう不安を経験するのは、身体面でもかなりの負担がかかると予想できます。乱気流による小さな揺れといっても、立っていれば足元がぐらつくくらいの揺れはあります。そういった場合の転倒や、それによって座席にぶつかるなどした時の衝撃も心配です。

妊娠5カ月前後であれば、体調も安定してくるし、旅客機に搭乗してよいとされています。どうしても旅客機に乗らなければならないというなら、その時期に合わせたほうが良いと思います。

<どんな飛行機を予約するか>

できればの話ですが、先に奥様が旅客機で旅行してよいかどうかを医師に確認して、航空会社に飛行機の予約をするのは、その後にしたほうがよいと思います。

先に航空会社を予約し、日程を固定してしまうと、万が一、医師から「旅行をとりやめたほうが良い」と指摘された場合、奥様があなたにそのことを言い出しにくくなるからです。

「せっかくダンナが飛行機を予約してくれたんだから、キャンセルさせたらまずい。なんとかして行かなくちゃ」奥様がそう考えて、ご無理をされてしまう心配があるからです。

それと、もし奥様のお好きな航空会社、乗りなれている機体があるなら、できる限りそれを優先してあげてください。本来はより広くゆったりした座席の機体を最優先としておすすめしたいのですが、まずは乗りなれていて、機内の雰囲気をよく知っていて、心からくつろげる飛行機が一番です。

おすすめなのは、奥様のお好きな雰囲気の客室乗務員がいる航空会社です。

男性には意外なことかもしれませんが、女性が女性を護ろうとする気持ち、女性同士助け合おうという気持ちというのは、案外強いものです。女性同士というのは、いつもそういう気持ちでいるものです。

たまたま乗り合わせた乗客と客室乗務員という間柄でも、それは同じです。フライト中、気の合う女性の客室乗務員が機内にいてくれることは、きっと奥様にとって心強いことです。

それで、さきほど申し上げた「より広くゆったりした座席」のことですが、そうであるとされている、いくつかの機体を申し上げます。奥様の体調にもよりますが、奥様ご自身に座席のリストを提示して、どの座席がいいかと考えさせてご負担をかけるよりは、ご主人が選んであげたほうがいいのではないかと思います。広いか狭いか程度の違いなので。

<座席について>

座席の広さは、シートピッチを目安と考えていいかと思います。

エコノミークラスには、31インチ(78cm)から33インチ(83cm)が多いようです。ピーチなどの格安航空会社は73cmくらい。

国内線に、JALのクラスJというのがあります。シートピッチは38インチ(97cm)、片道1000円の追加で乗れるそう。

国際線の例を挙げると、ユナイテッド航空のエコノミープラスがあります。ホノルルやグアムに路線があるそうです。シートピッチは35インチ(90cm)、これはエコノミー最大サイズであると聞いていますが、搭乗料金が高め。

それと、デルタ航空にエコノミーコンフォートがあるそうです。シートピッチは36インチ(92cm)、ユナイテッドと同様、グアムやホノルルに運行しています。ただし座席数が少なめで、搭乗料金が高いわりに競争率が激しいそうです。

それと、座席からさかのぼって航空会社を探しても、狙った座席が取れるとは限らないという問題があります。

航空会社に奥様が妊娠中であることを伝えれば、航空会社の方でそれを考慮して、最善の座席を提案してくれます。その座席とも比較・検討されることをおすすめします。

<機体について>

結論から言うと、のびのび過ごせて揺れの少ない大型機をおすすめします。小型機は狭いのも問題ですが、なにしろ揺れます。もっとも、国内外ともほとんどの場合、ボーイングやエアバスの大型機で旅行することになるとは思いますが。

行った先で、セスナとかで遊覧飛行はやめてください。ヘリで都内の夜景見物とかありますが、あれもダメです。とんっでもない。

気球!?

それ言ったの、奥様ですか?

妊娠初期は体調が安定しないので、何をするのも不安で怖い。それが五ヶ月過ぎたころ、体調が安定してきたとなると、いろんなことをやりたくなるんだそうです。子どもが生まれたら忙しくなるんだから、その前にあれもこれもやりたい。

「今のうちにダンナと二人きり、水入らずで飛行機旅行がしたい」

これは安定期の妊婦に、ものすごく多いパターンだそうです。もしかして、妊娠中の奥様と飛行機旅行っての、それじゃないですか?

・・・やっぱり?

いろいろ申し上げましたが、医師の判断をきちんと仰げば、まずは問題ありません。何も起きてないうちから、心配しすぎるほうが身体にさわります。絶対必ずなんの問題もないとは申しませんが、飛行機で旅行して、何事もなかった妊婦の方が多いんですから。

だからといって、妊娠中というきわめてデリケートな時期に、なんの準備も警戒もせず、旅客機旅行は危なすぎです。奥様には必要最低限のことだけ伝えて、あとはご主人のあなたがサポートしてください。

航空会社に予約する際、妊娠中であることを伝えれば、全力で対応してくれます。優先搭乗させてくれたり、座席指定できたり、サービス内容は航空会社によっていろいろです。空港にも妊婦が過ごしやすいよう、サポートする体制が整っています。奥様が妊娠中であることを伝えれば、金属探知機やX線などの検査について、配慮してくれます。

実は金属探知機による検査などは、妊娠中に受けても問題ないのですが、

「うっかり言い忘れて検査を受けてしまったので、不安でしかたがない」という女性が多いのです。

検査の際、奥様が言い忘れたり、言いそびれたりしないよう、スタッフとよく話し合ってください。

それと、細かいことですが「母子手帳」を持っていってください。「海外旅行だから持っていかない」という人が、けっこう多いそうです。行った先でなにかあると困るから、持ってってください。たいした荷物ではありませんから・・・。

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