1000人の社員が立ち会った試験飛行。「HondaJet」とは

アメリカに、ホンダ・エアクラフト・カンパニー(HACI)という会社があります。

本田技研工業の子会社です。あのホンダ。バイクの本田宗一郎です。バイクにシビックに本田技研工業の創業者、たいへんな人物ですが今回敬称略。おそれいります。

この本田の名を冠したビジネスジェットがあります。その名も「HondaJet」。まんまですが・・・。

でも、良質の機体は名前がシンプルで、ごちゃごちゃ長かったりしないものです。

HondaJetは、このクラスのビジネスジェットとしては、おそらく世界最高水準の機体。それを製造しているのが、ホンダ・エアクラフト・カンパニー、HACIなのです。

本田宗一郎はたいへんな飛行機好きとして知られています。ホンダのバイクのエンブレムに翼があることはご存じのことと思いますが、航空機産業への参入も具体的に行っています。

本田宗一郎が航空機事業への参入を宣言したのは1962年。昭和37年のこと。1986年に和光基礎技術研究センターを開設し、これがホンダが本格的に航空機研究を開始した年とされています。

1989年、これが平成元年ですが、アメリカ合衆国ミシシッピ州立大学ラスペット飛行研究所と提携、初めて開発された小型実験機MH02が、他社製エンジンながら飛行に成功しています。

ホンダの目標は、「エンジンも機体もなにもかも、すべてが自社製のビジネスジェット機」。

それを目指して始まった研究が、今日の「HondaJet」に到達したのです。

これまでのビジネスジェットに対するすべての不満を一掃した。そういっても過言ではない見事な機体です。

ややイルカな顔つきですが、NLF(Natural Laminar Flow、自然層流)の技術によるものです。物体周りのスムーズな空気の流れを最大化する技術で、空気抵抗を大幅に低減します。高速飛行と低燃費への貢献が大きい。

このテのことを追求すると「?」な形状になることもあるのですが、HondaJetはすんなりしたセンスの良い形状です。ノーズだけでなく、主翼の形状にも反映されているそうです。

そして、セレブのプライベートジェットなんて見たことも聞いたこともない多くの日本人にはあずかり知らぬことですが、これまでのビジネスジェットの飛行中の客室内には、胴体後部にあるエンジンの騒音がうるさいという問題がありました。

多くのビジネスジェットのエンジンは胴体に取り付けられていますから、その分胴体内のスペースは制限されますし、エンジンから客室に伝わる騒音も大きい。人と話なんかできないらしい。このあたりはよくわかりませんが・・・。

これを解決したのがHondaJetの「OTWEM(Over-The-Wing Engine Mount)」の形態です。主翼上面エンジン配置ともいうようで、エンジンが胴体ではなく、主翼の上方に取りつけられています。

この画期的な設計によって客室に伝わる騒音が低減し、まるで静かなリビングでくつろいでいるときのように会話を楽しめる。「HondaJetはエアトラベルの概念を変えた」とまで言われています。

それに、これまでにない大きな客室と荷物室を確保し、このことは空気抵抗の大幅な低減にもつながっています。

HondaJetの先進技術は形状だけではありません。

多くの航空機でアルミニウム合金が使われているのに対し、HondaJetは特殊な炭素繊維強化プラスチックを胴体に採用しています。強さと軽量化はスティフンドパネル様式が、形状保持はサンドイッチパネル様式が生み出している構造です。

クラス最高性能の低燃費と高速飛行、これまでのエアトラベルの常識をくつがえした大容量荷物室や、客室の低騒音と快適性。この高性能で450万ドル(約4億5000万円)。同業他社の同クラスの飛行機とたいして変わらないので、むしろ破格の値段です。

2006年10月の全米ビジネス航空ショーで、3日で100機の売上ならぬ3日で100機の受注に成功。「ワゴンでパンケーキを売っているように次々と売れる」とたたえられたのは、当然ともいえるのです。

2014年6月27日には、アメリカのノースカロライナ州にあるピードモントトライアッド国際空港で、HondaJet1号機が初飛行に成功しました。

機体のカラーリングはパールグリーンにメタリックゴールドのストライプ、デザイナー渾身の力作です。初飛行は84分間、1000人の社員が空港に来て、試験飛行に立ち会ったそうです。

HondaJetのカラーリングには他にも銀、赤、黄など多くのバリエーションがあり、そのデザイン性の高さから、2012年「エアクラフトデザインアワード2012」を受賞しています。

HACIの藤野道格(みちまさ)社長は、こんなビューティフルな飛行機は見たことがないと言われるのが一番嬉しいそうです。

この藤野社長は、HondaJetの設計者であり、プロジェクトの開発責任者もかねています。2014年8月に、日本人初の「ケリー・ジョンソン賞」を受賞しました。

ケリー・ジョンソン賞は、アメリカの学術団体「SAEインターナショナル」が主催する賞。「HondaJetの主翼上面エンジン配置形態は、航空宇宙工学における学門的知見の発展に貢献した」と評価されたのです。

クラス最大の座席間隔、自在調節が可能なエグゼクティブシート、洗練されたインテリアデザイン。HondaJetはこれまでのビジネスジェットのイメージを根本から変えました。

それに、HondaJetが優れているのは機体や客室だけではありません。コックピットの空間、ウィンドシールドの視界、ともに広くて余裕があって、過ごしやすい設計です。

操縦機器の配置が適切なのは、人間工学とヒューマンファクターの研究に基づいた設計だから。3台の14インチ高解像度ディスプレイと、2台のタッチスクリーンコントローラを装備しています。パイロットが必要とする全情報をスムーズに把握できて、直観的な操作が可能なのです。

あとは形式証明を取得して、FAAから運航許可がおりるのを待つばかり。2015年の納入を目指して、すでに10機が最終組み立ての段階にあります。

ところで・・・。

1000人の社員が立ち会った、2014年6月のHondaJet1号機の試験飛行について。

なぜ試験飛行の場所が、アメリカノースカロライナ州・ピードモントトライアッド国際空港だったのか。なぜ1000人もの社員が、HondaJet試験飛行の現場に駆けつけることができたのか。

きわめて非常に大きな理由があります。どう考えても、これが理由でしょう。

ピードモントトライアッド国際空港は、ホンダ・エアクラフト・カンパニー本社の隣です。本社を建てたのは2007年ですが、2014年の時点で、どちらかが転居してるとは思えません・・・。

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