旅客機が持つ最強のブレーキシステムとは何?

1982年2月9日、福岡発羽田行きの日本航空「DC-8」型機が、羽田空港沖で着陸態勢に入ったあと、機長が「逆噴射装置」を入れたために失速し、滑走路南の東京湾上に墜落して、死者24名、負傷者147名を出す事故が起こりました。

後日、この機長には心身症と呼ばれる心の病があり、それが原因で誤操作を起こしてしまったといわれています。しかし、どんな理由があるにせよ、機体が着地する前に逆噴射を始動させるなど、私たちには考えられないことです。機体が宙に浮いているあいだにブレーキをかけてしまったのですから・・・。

「逆噴射」は、旅客機を前進させるために使うジェットエンジンを逆方向(前向き)に噴射させることで、急激な減速を図る装置です。時速200~250kmで着地した旅客機を、滑走路の末端に行くまでのわずか2000~3000mのあいだに停止させなければなりません。そのために強力なブレーキが必要になるわけです。逆噴射装置は、旅客機が持つブレーキのうち最もパワフルな制動装置。

しかし、逆噴射装置の力だけでは、機体を完全に停止させることは難しいのも事実。これと合わせて、主翼についているスポイラー(制動板=エアブレーキ)とタイヤ(車輪)にとりつけられているブレーキを使うことで、ようやく時速200kmを一気に時速10kmまでに減速できるのです。

3つの制動装置は、スポイラー→逆噴射→車輪ブレーキの順に操作します。着陸と同時にスポイラーを立てて空気抵抗を起こし、次に逆噴射装置で減速しながら、車輪ブレーキをかけつつ、タイヤの回転を止めるのです。

コックピットでの操作は、車輪ブレーキは足でブレーキペダルを踏み、スポイラーはエアブレーキレバーを引き、逆噴射装置はスラストリバーサー・レバーを引かなければならず、これだけの操作を機長がひとりで行なうとなると、けっこう忙しそうです。

ならば、副操縦士が手伝えばよいではないかと思われるかもしれませんが、機体の操縦操作は原則として機長がひとりで行ない、副操縦士は操縦操作以外の業務に就くことになっています。

ブレーキをかけるときだけ、「ちよっとスラストリバーサー・レバーを引いてくれない?」と頼むことは「できない」とはいわないまでも、「まず、ありえません」。

しかし、心配ご無用。最近の旅客機には、車輪が着地すると、車輪ブレーキとスポイラーが自動的に作動するシステムが設けられており、機長はスラストリバーサー・レバーの操作に集中できるようになっているのです。ただし、いくら集中できるといっても、冒頭の事故のように、誤ったタイミングで引いてしまってはどうしようもありません。コックピット内の操作環境を改善しただけでは、安全は約束されないということかも知れません。

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