パイロットの事情による人災を防ぐ方法はあるのか?

2015年4月、インドの国営航空会社であるエア・インディアの操縦室内で、機長と副操縦士が殴り合いのケンカをするという事件がありました。

現地の報道によれば、西部ジャイプールから首都ニューデリーに向かうコックピット内で、離陸前の手順などについて口論となり、副操縦士が機長に殴りかかったといいます。

幸いにもこの便の運航には大きな支障はなく目的地に無事に着陸したそうです。

2015年3月24日にフランスでジャーマンウィングス機が墜落した事故は記憶に新しいものですが、このケースはまさしくパイロットによる人災であったため、想像もしていなかった操縦室内のトラブルによる事件が連続して発生していることについて大きな衝撃となっています。

ドイツのジャーマンウィングス機の事故については、回収したブラックボックスやボイスレコーダー等の解析の結果、精神的な病を抱えていた副操縦士が、機長がトイレに行った直後に操縦室に内側から施錠をして機長を締め出し、高度を下げてフランス南東部のアルプス山中に墜落させたものとされていて、乗客144人、乗員6人の合計150人全員が死亡という最悪の結果を招きました。

これまでの調査では、副操縦士の自殺行為が墜落原因と見られています。

操縦士の自殺行為が引き金となったという点で大変ショッキングな墜落事故として事故発生後も大きく報道されていましたが、実は機長や副操縦士の自殺行為とみられる人災が原因で墜落に至った旅客機はドイツのジャーマンウィングス機が初めてではなく、この15年ほどで少なくとも3件発生しているのです。

以下はドイツの週刊誌シュピーゲル(3月28日号)の記事に掲載された内容です。

まず1件目は、2013年11月29日に発生したLAMモザンビーク航空470便(エンブラエル190)の墜落事故です。

この便は、モザンビークの首都マプト発アゴラの首都ルアンダ行、離陸後、水平飛行に入り、副操縦士がトイレに行った直後に機長がコックピットを閉じ、機体の高度を下げたという事例です。

副操縦士がコックピットに入ろうとしたがなかなか扉が開かず、ハンマーで叩き続けてやっと開いた時にはもはや手遅れの状態で飛行機は地上に墜落し、乗員乗客33人全員が死亡しました。LAM航空では墜落させたのは機長でしたが、ジャーマンウィングス機の状況と大変酷似したケースです。

2件目は1999年10月31日に発生したエジプト航空990便(ボーイング767)の墜落事故です。

この便は、ニューヨークを出発後、目的地のカイロへ向けて大西洋上を飛行中に、コックピット内で副操縦士が突然操縦桿を前方に向けてエンジン出力を下げたため、墜落を防ごうとした機長と殴り合いが始まり、正気を失った副操縦士が機長を倒すと「アラーを信じる」と叫び機体を墜落させたという事例です。

この事故でも乗客乗員217人全員が死亡しました。

3件目は1997年12月19日に発生したシンガポールのシルクエア航空185便(ボーイング737-300)の墜落事故です。

旅客機が上空1万600メートルから突然急直下に落ち、乗客乗員104人全員が死亡した事例です。

国家運輸安全委員会(NTSC)は原因不明としていますが、機体製造元を管轄するアメリカ側は、私生活に問題があった機長が故意に飛行機を垂直に急降下させ、墜落させたものとの見解を出しています。

なお、2014年3月8日にレーダーから突如消え、未だ消息不明となっているマレーシア航空370便(2014年3月発生)についても、機体が見つかっていないため原因は不明とされていますが、機体の技術的原因も排除できなものの、上記の3件と同様に人災による事故説もささやかれています。

マレーシア政府は2015年1月、機体が見つかっていないことから乗員乗客239人全員死亡との結論を出しています。

乗員・乗客の死亡を伴う航空機の事故は毎年数件ずつ発生していますが、例えば大手航空会社でない場合や外国の国内線を運航している場合、また日本人が搭乗していなかったりすると日本で大きく報道されることはありません。

しかしながら、飛行機自体の不具合などではなく、機長や副操縦士が自殺などを目的として意図的に飛行機を墜落させた疑いのある墜落事故は珍しいとはいえないということです。

これからの航空機の安全運航については、技術分野の革新と併せて、飛行機を操るパイロットの心身の健康状態についても重要な要因となります。

ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネは、「パイロットは一般的によく訓練され、教養も高いが、人間は天使ではない。疲れたり、ストレス下では間違いを犯す」と述べています。

操縦士の個々の事情やプライベートを会社が把握・管理できるのか、難しい局面にきていると言えるでしょう。

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