ライフスタイルを変えた格安航空会社

日本から海外へ自由に旅行できるようになったのは1960年代からのことです。当時は1ドル360円の時代で、しかも日本人が1年間に使える外貨の額や、国外に日本円を持ち出すには厳しい規制がかけられていました。そして、他国へ入国するためにも必ずビザが必要で、その申請手続きも難しかったそうです。

その上、航空券の値段も非常に高く、例えばロンドンまでのツアー代金は、現在の金銭価値で300万円以上したといいます。

しかも、今のように簡単にオンライン予約ができたわけではないため、個人が海外旅行に行くには、裕福な家庭か、大手旅行会社のツアーに参加するくらいしか方法がありませんでした。

それが現在では、30分の1以下の金額でも行けるようになり、方法次第ではさらに安い予算でも海外旅行をすることができます。アジアであれば、国内旅行よりも安く旅行を楽しむことができますが、これは50年前からしたら、夢のような発展といえるのではないでしょうか。

日本LCC元年の2012年、関西空港を拠点に3月から就航したピーチ・アビエーションは、半年間で搭乗客数が60万人を突破し、平均搭乗率も79%と、当初の見込みを上回りました。初めて迎えた夏の旅行シーズンは、国内線のお盆期間の利用率で94.3%にも達しています。

航空代金の安さにひかれて、初めて飛行機に乗ったという人も少なくないのではないでしょうか。

では、国内LCCが旅行市場にもたらした効果とはどのようなものでしょうか。

まずは、LCCの先進市場の例としてヨーロッパとオーストラリアをみてみると、欧州では鉄道と競合しています。

例えば、ライアンエアが本拠を置くイギリスでは、航空市場全体が2000年前後に下降しましたが、その後、LCCの伸びが顕著にみられました。2010年には航空旅客数のうち、LCCのシェアが4割を超え、今まで交通機関を利用してこなかった新規の需要を40%創出したと、説明しています。

英国全体の海外旅行の旅客タイプにも変化がみられ、目的別では2005年から、親族や友人の相互訪問が増加したそうで、このような人たちは週末旅行である代わりに、頻度が多くなっています。ここから、LCCの普及で、旅行期間の短縮化傾向がみられます。

次にオーストラリアをみてみると、国内線と国際線では状況がまったく違います。国内線は2000年ではLCCはほぼゼロだったのが、景気の低迷した時期にLCCが入ったため、その後、急速な勢いでシェアが上がりました。

実際、座席数に占めるLCCのシェアは2011年には5割に達し、旅客数は2001年と比べると80%増加しており、この増加分は、LCCが牽引しているといえるでしょう。

ただ、宿泊者の延べ人数が、2000年以降減っていることから、日帰りでの利用や、航空機による通勤が増えた可能性もあるといわれています。

このようなオーストラリア人の需要の変化については、例えば、これまで特に予定がなかったような人が、旅行や帰省をすることが増えたためで、他にも、例えば、スパをするために週末LCCでバリに行くなど、目的が明確になったこともあげられます。

また、新規需要として、海外ではメディカル・ツーリズムや自分のルーツをたどる旅などが生まれました。確かに日本ではそのまま当てはめることはできませんが、そこからヒントをえて、明確な目的型の旅行やライフスタイルをキーワードに、国内日帰り旅行や一人旅などの可能性が考えられています。

日本に目を向けてみると、2007年に日本-オーストラリア間にジェットスターが就航しましたが、あまり需要は伸びませんでした。しかし2012年、日本初の国産LCCが相次いで登場し、日本の空は大きく変わりました。

2011年の震災以降、日本への外国人旅行客が大幅に減少しましたが、LCCの進出は経済面でも歓迎されています。利用客の減少で経営難に陥っている地方空港にとって、これまで電車や車、長距離バスなどを利用していた新規の客層や、飛行機を利用できなかったような若年層の需要を掘り起こし、海外観光客の誘致も期待されています。

しかし、LCCが今後、日本の空に定着するかどうかについては、専門家の意見は分かれています。というもの、米国の航空自由化を機に登場したLCCは、その後世界的にシェアを伸ばしましたが、急成長した会社がある一方で、事業停止や経営破綻に追い込まれた会社も多くあります。

しかも、日本はLCCにはあまり適さない土地柄といわれています。その証拠に、日本へのLCCの進出は、欧米や他のアジアの国々と比べて、大きく遅れています。その理由はいくつかありますが、最大の理由として、空港使用料が高額であるということと、そして日本特有の文化の問題があります。

LCCは、安全性は確保しつつコストダウンを図っています。しかし、日本の現在の航空事情は、機内サービスの省略や有料化では実現できません。

また、LCCでは基本的に、航空券の予約はインターネットを通じて自分で行いますが、日本人、特に中高年の世代では、インターネットで購入する習慣は少なく、プライベートであれば特に、まずは旅行会社の窓口に行くという感覚が根強く残っています。

さらに、日本人はフルサービスに慣れており、至れり尽くせりから脱却できていないため、LCCの、低コスト実現のための極端なサービス削減が、日本の文化として、あまり歓迎されないことも一つの理由としてあげられるようです。

もちろん、LCC側もマーケティングを行い、その結果から日本の特異性を鑑みて、各社対策をしていることでしょう。

LCC元年である2012年は物珍しさもあって、各社まずまずの出だしだったようですが、このままでは数年後には厳しい状況が訪れてもおかしくはないとみられています。

マスコミやニュースで取り上げられることも多くなり、口コミでの評判をどこまで広げられるのか、そして、LCCのコンセプトの中でどこまで日本の文化に合わせることが出来るのか、今後の動向が楽しみでもあります。

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