日本のパイロットが不足している本当の理由と対策の遅れ

現在ではそうでもないようですが、かつて飛行機のパイロットというと男の子の憧れの職業でした。しかし、実際パイロットになるとなれば、ジェット機操縦の技術に加えて英語能力や非常時の対応力、操縦する飛行機全体に対する責任感など、非常に高い能力が要求される狭き門であることも確かです。

現在日本のパイロットは不足気味。この夏、日本初のLCC(格安航空会社)ピーチ・アビエイションがパイロット不足のために2千便の大量減便をしたことは記憶に新しいところ。最近のLCC増加はパイロットの需要を高め、当然ながら限られた人数のパイロットが不足する傾向にあります。

ではなぜ不足するのか?パイロットというのは高給取りです。日本航空や全日空のパイロットは年収1500万円ほど。対して、LCCはコストを下げるためにはパイロットの収入も下げざるを得ず、年収は日本航空や全日空の半分程度にしかなりません。

日本航空や全日空の現職パイロットで、収入が落ちるのにフライト数が増えるLCCに行こうという奇特な人はいないでしょう。

また、日本航空や全日空のほうではパイロットを自社で育成するという方針のために、経験があろうとも他社からの中途採用をせず、こちらはこちらで不足しつつあります。

では海外からパイロットを連れてきてはどうか?これについては医師免許などと同様海外のパイロット資格を持っていても、日本の航空会社で働くには日本でパイロットの資格を取り直さなければなりません。そして日本のパイロット資格は飛行時間や適性などといった基準が諸外国より厳しいので、ほぼ不可能と言ってもいいでしょう。

海外にはパイロット派遣会社というものがあって、不足したパイロットを派遣で補充するということができますが、日本の場合はパイロットは正社員に限るという閉鎖性があるので人材の流動性が滞ってしまっています。

また、海外では空軍パイロットが民間航空会社に再就職するというのも珍しいことではなく、むしろ厳しい空軍の訓練を経たパイロットのほうが優秀だったりするのですが、日本では航空自衛隊のパイロットが民間に再就職する制度は民主党政権時代に中止されており、2014年にやっと再開されたばかりなのでまだまだ有効に活用されていません。

パイロットが不足する要因はもう一つ。実はこちらのほうが深刻なのですが、現在日本で機長を務めている50代が2030年ごろに一斉に退職するという問題。

日本でパイロットの資格を持っていても「機長」になるためにはさらに10年以上のキャリアと専門訓練が必要で、さらに数種類ある飛行機ごとに違っている部分も全て覚えなければならず、40代以下のパイロットが機長になるまでの間に空白期間が生まれてしまうということです。

2030年の一斉退職問題に対して、国土交通省は2007年ごろから懸念を示していましたが、それから7年も経った2014年の12月にやっと重い腰を上げて対策委員会を設け、このパイロット不足問題に対する検討を始めるそうですが、対策委員会を立ち上げるまでのことに7年もかけた国土交通省が2030年までに対策を間に合わせられるか極めて疑問です。

とはいえ、このような現状でも悪いニュースばかりではありません。パイロットを養成する航空大学校の入学倍率は毎年8倍ほどあり、また例えば桜美林大学、東北大学、千葉科学大学、神奈川工科大学などにはパイロット養成課程が創設され、パイロットを目指す門戸は広がっています。そして、全日空のパイロット新卒採用の倍率はなんと毎年100倍以上。パイロットを目指している人材だけはまだまだ豊富です。

ただ、採用の倍率が100倍もあるならば、もうちょっと採用数を広げてこのパイロット不足に対して少しでも協力すればいいのではないかと思いますが・・・。いかがなものでしょう・・・。

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