JALを復活に導いた稲盛イズムと『おもてなし』

中国における対日感情は、共産党政権の都合によってコントロールされます。

就任前から反日的な態度が目立っていた習近平国家主席が対日方針を改めて以降の中国では、以前ほどの強烈な反日行動は鳴りを潜めていますが、2012年ごろは尖閣諸島の国有化問題で明らかに共産党が糸を引いた反日デモの狂奔がありました。

その2012年ごろの極度に高まった反日感情の中でも、中国人から尊敬を受けていた日本人がいます。それが、京セラの創始者であり、現日本航空名誉会長の稲盛和夫氏です。

経済発展著しい時期の中国では、経営の神様としてその著書が翻訳され、講演会なども行われています。中国最大のオンラインマーケット「アリババ」会長の馬雲氏も稲盛氏の信奉者だと言われます。

2010年に経営破綻した日本航空を、2年後にはV字回復させて再上場させたのも稲盛式経営のなせる技でした。会社再建の任を担い、会長に就任した稲盛氏が行ったのは、具体的な会社の運営体制の改革以上に意識改革でした。

見事に会社を再建し、名誉会長へと引いた稲盛氏が、2013年の『JAL REPORT』に記した言葉は「謙虚にして驕(おご)らずに努力を」でした。それは、JALを経営破綻に追い込んだ「親方日の丸」体質とは正反対の理念です。

稲盛氏が一貫して説いたという「人の心をベースとした経営」の表れの一つと言えるのが、グランドスタッフ、つまり空港で乗客へのサービスを行うスタッフの向上です。現在JALでは、稲盛イズムを基礎に「どうすればもっとお客様に喜んでもらえるか」というテーマでサービス品質を改革しています。

JALのグランドスタッフは、チェックインカウンターでの業務以外に空港フロアでも待機し、乗客の案内やサポートなどを行っています。空港業務に関すること以外にも、お土産や飲食店の情報を提供することもあるとか。

また、2012年以来、大田区にあるJALの第1テクニカルセンターでは「空港サービスのプロフェッショナルコンテスト」が毎年行われています。

これは、実際の業務でのシチュエーションを想定し、アナウンスとチェックインカウンターでの乗客への対応が審査されるコンテストで、2014年末に行われた第3回コンテストでは、日本全国の職員のみならず、海外のスタッフも参加しました。

特にカウンター業務の審査は、様々な設定の乗客役が無理難題を押し付けて、それに対応する技術をぶっつけ本番で審査するというもの。審査基準はいかにマニュアル通りにできるかではなく、いかに相手に則した「おもてなし」ができるかのようです。

第3回コンテストの優勝者は、韓国から初出場のイ・ダヘさん。海外スタッフにも稲盛体制以降のJALの理念が行き渡っていることが伺われます。

地方空港から参加したスタッフの中には、英語ができずに、英語しか話せないという設定の相手に四苦八苦する参加者もいましたが、逆に英語ができないなりに真摯に対応したことが評価され、社長賞に選ばれました。

このようなコンテストはスポーツ競技とは異なり、普段の業務で行っていることがそのまま出るものです。逆に、コンテストでいい成績を取るためだけの付け焼き刃はすぐばれてしまうはず。

接客業として最も重要なサービス業務の充実が日常的に徹底されていることで顧客の信頼を勝ち取り、それが経営破綻という絶望的などん底からの復活をもたらしたのでしょう。

日本の「おもてなし」は世界的に評価されてきていますが、実のところ単にマニュアルに従っているだけというものが多いです。そんな中にあって今一番求められているのは、JALのグランドスタッフのような、通り一遍のマニュアル対応ではない、本当の意味での「おもてなし」なのだと思います。

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