パイロットが陥りやすい飛行中の錯覚とは?

いかに飛行経験を積んだベテランパイロットといえども「人間」であり、ミスを犯すことはあります。ミスのなかには、人間に特有の感覚がもたらす「錯覚」が引き起こすものもあります。パイロットに起こりやすい錯覚には、どのようなものがあるのでしょう。

錯覚の多くは、視覚によって起こります。駅のホームに止まっている電車に乗っているとき、横に並んだ電車が動きだすと、自分の乗っている電車が動きだしたかのような錯覚に陥ることがあるでしょう。目から入ってくる情報に惑わされてしまうからです。巡航中の上空では、目印となるものも見あたらず、視覚情報はきわめて少ないといってよく、こうした条件下では、数少ない視覚情報に頼りがちで、錯覚が起こりやすくなるのです。

たとえば、連なる雲の上を飛行していると、雲の尾根部分を水平線と誤解して飛行してしまうことがあります。雲の形は多様で、地上と平行に連なっているとはかぎりません。しかし、地上が見えない状況では、雲の「じゅうたん」が海や陸地にかわる存在に思えてきます。そして、雲の尾根と平行に飛ぼうとする神経が働いてしまうのです。その結果、水
平飛行の姿勢を崩してしまうことにもなりかねません。

また、雲のなかを飛行している場合、太陽の光が差しこんでくる方向を頭の真上と勘違いすることもあります。特に高高度の雲中では、太陽光が上から差し込むとはかぎりません。光の方向を頭上と思いこんでしまうと、旅客機がとんでもない向きに傾いてしまうこともありうるのです。

このほか、夜間飛行では、一つの光を凝視していると、それが止まっているのに、あたかも動いているかのような錯覚に陥ることがあります。また、海上の船の明かりや漁火を星と見誤ってしまうこともあります。地上の明かりと空の星をとり違えれば、機体が逆さ状態で飛んでもおかしくありません。

こうした錯覚を回避するために、パイロットは自分の感覚だけに頼るのではなく、常に計器をチェックして飛行高度や速度、機体の姿勢を確認するほか、無線標識など外部からの情報にも目を配るようにしています。

最も怖いのは「思いこみ」です。一つの情報に固執しすぎない、冷静な判断と対応がパイロットには求められています。錯覚や勘違い、思いこみは、疲労や空腹でも起こりやすくなります。特に長距離飛行では、複数のパイロットが交代で休憩や食事をとるなどして、集中力を保てるよう体調管理することが大切です。パイロットの体も機体と同様、入念な「整備」が必要ということかも知れません。

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