意外に狭い?コックピットという名の仕事場

「コックピット」(cockpit)とは「ニワトリを閉じこめておく籠」という意味です。語源から連想し、旅客機の操縦室であるコックピットも「さぞかし狭いところなのか」と想像した人は、「いい勘」をしているといえるかもしれありません。実際に、コックピットはとても狭い場所なのです。その構造をおおまかに解説してみましょう。

ジャンボ機を例に挙げると、前方に2つの座席があり、ここに機長と副操縦士が座ります。手もとには操縦桿、足もとには方向舵ペダルがあり、これらで旅客機の姿勢を調整します。また、2つの座席のあいだにある「スラストレバー」はエンジン出力を調節するもので、スピードや機体の上昇率、降下率をコントロールします。

コックピットで目を引くのが計器類の多さです。2人のパイロットの座席前にそれぞれ約15種類ずつ、機長と副操縦士のあいだにも約20種類あり、合計50種類以上の計器が所狭しと並んでいます。このほか、パイロットの背後には、航空機関士(フライトエンジニア)が操作する、燃料や空調、油圧系統のスイッチや計器類が並んだ「フライトエンジニア・パネル」があります。狭い場所に計器やスイッチを集中させたら間違いのもとではないか、と思われるかもしれないが、答えは「No」です。むしろ、狭いほうが好都合なのです。

たとえば着陸時、パイロットは操縦桿とスラストレバーを握り、飛行機の姿勢を示す姿勢指令指示器という計器に目をやりながら機首の上げ下げや、機体の傾き加減を調整します。次に、高度計や昇降計を見て、高度や降下率を着陸態勢に合わせ、同時に姿勢指令指示器も確認しつつ、速度計でスピードもチェック・・・というように、とても忙しいもの。短時間に多くの作業をこなしながら、常に計器類をチェックしていなければなりません。

もし、コックピットが広々としていたら、自分の席から必要な計器類をすべて目視することはできないでしょう。そのために、パイロットが操縦桿から手を離し、席を立ったり座ったりしなければならないとしたら、それだけで危険です。スイッチ類がパイロットの頭上に集中しているのも、計器を見ながらスイッチのON・OFFをやりやすくするためです。

このように、パイロットは狭いコックピットに、あたかも鶏が閉じこめられているかのように存在しています。国際線などでフライト時間が長い場合に、交代で休憩(仮眠)をとる以外はむやみに座席を立つことも許されません。食事も乗客用のトレイに乗ったものとは異なり、深さ5cmほどの箱に詰めこまれたものを膝の上にのせて食べるのだとか。

「勤務中」とはいえ、食事時間もゆっくりとれないパイロットとは過酷な職業と言えるでしょう。

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