結局大手に頼らざるを得なくなった新規参入航空会社の悲しい運命の理由とは

1990年代から2000年代初頭にかけては「規制緩和」の嵐が吹き荒れた時代でした。とにかく規制はよくないもの、規制緩和は正義、既得権益を嫌う日本人の僻み根性がこうした政府のプロパガンダに踊らされ、様々な規制が緩和されました。

それが今頃になって社会に歪をもたらしていることはご承知のことと思います。

この規制緩和には航空業界も巻き込まれました。

戦後まだ未成熟だった航空業界は、1951年制定の「航空法」で参入、運賃、便数などが規制され、保護されてきましたが、その規制が緩和され、規制緩和後に最初に参入したのが1996年に設立されたスカイマークと北海道国際航空株式会社(現AIRDO)です。

新規参入両社とも、1998年に運行を開始。格安運賃を武器にしており、当初は注目を集めましたが、その後JAL、ANAともに運賃を下げて対抗。大手より体力がない両社は苦戦します。

それでも新規参入は続き、スカイネットアジア航空(現在ソラシドエアのブランド名で運行)、スターフライヤーなどが参入しました。

しかし、エアドゥは2002年に経営破綻、スカイネットアジア航空は2004年に産業再生機構に支援を申請するなど苦境にあえいでいます。

それに加えてLCC(格安航空会社)の参入により本来の武器であった格安運賃勝負でも負けてしまっています。

○スカイマークの状況

スカイマークがエアバスA380の購入をめぐり、資金繰りが不透明なことからエアバス社に契約解除されたというニュースは記憶に新しいと思います。

これによりスカイマークの経営悪化が広く報道されました。一時期はエアバスから700億円規模の賠償金を要求され、もはや再起不能になるのではないかと危惧されていましたが、2014年10月に200億円規模の違約金を支払うことで両社が合意。とりあえずは倒産には至りませんでした。

そもそもなぜこういう問題が起きたか。それは、国際線への参入を目指し事業拡大路線を歩んだ結果です。

スカイマークは2005年ごろには運行トラブルなどが原因で経営悪化。しかしその後経営の見直しを行い、2008年には再び黒字に転じるまでに業績が回復していました。ところが、原油高や円安による燃料費の増大、上述の通りさらに安いLCCの参入などにより再び経営は悪化。2013年には25億円という赤字を出してしまいました。

スカイマークはこの危機を脱すべく、2014年にエアバス社のA330-300を導入。全てのシートをJALのクラスJ並のゆとりある空間にしながらも、運賃は従来のままという「グリーンシート」にして、安価ながらもすし詰めで快適とは言いがたいLCCとの差別化を打ち出しました。

国際線への参入もこうした流れから赤字脱出をするためのものでしたが、業績が回復しないままエアバスA380を6機、合計1900億円導入するというのは無理がありました。

設立以後独立を保ち、2000年には新規参入組の中では初めて上場企業となったスカイマークでしたが、このA380問題が深刻なダメージとなり、最終的にはJAL、ANAに支援を要請。2015年3月から両社とコードシェア(一つの定期便を複数の航空会社で共同運行するもの)を行うことになりました。

○スターフライヤーの状況

規制緩和後の新規参入航空会社で、スカイマークに次ぎ2番めに上場会社となったのがスターフライヤーです。

2002年に神戸航空株式会社として設立された同社ですが、2003年に福岡県に移転。社名をスターフライヤーと変えて、北九州空港を拠点に、2006年から運行を開始。北九州-羽田の定期便の他、アジア各地へのチャーター便を運航してきました。2011年末には東京証券取引所第二部に株式を上場しています。

ところが2013年にはスカイマークと同様の理由で赤字転落。その損益額はスカイマークよりも多い30億円でした。しかし、2014年の4月~6月期(第一四半期)には、スカイマークが赤字を55億円にまで拡大させたのに対し、スターフライヤーは4億円と大幅に改善しています。

これによりスカイマークの決算短信(上場企業が証券取引所に提出する決算速報)には「継続企業の前提に関する注記」がついたのに対して、スターフライヤーの決算短信からは前記にあった「継続企業の前提に関する重要事象等」が消えました。

継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)とは、二期連続の営業赤字が出た場合に有価証券報告書などに記載することが義務付けられているものでその「注記」はリスクの内容を開示するもの、「重要事象等」は「注記」と同様ですが、「注記」よりはやや軽度のものです。

この経営リスクを解消できなかった場合は、株式の上場が取り消されます。

スターフライヤーも赤字解消のために拡大路線をとって、それが裏目に出て業績が悪化していました。しかし、スカイマークに比べて大幅に業績が持ち直してきているのはなぜかというと、まず関西-福岡便、北九州-釜山便などといった不採算路線の休止、希望退職者の募集などといったリストラ策の効果が出たことが挙げられます。

しかしそれよりも強いのは、株式上場をした翌年の2012年にANAが株式17.69%を取得して筆頭株主となっていたことです。

ANAは2014年より本格的なスターフライヤーへのテコ入れを始めました。まず4月に米原前社長が経営悪化の責任をとる形で退任。6月までは同社の高橋常務が社長を代行し、その後ANAから招聘した松石社長が就任しました。ANAからは経営や企画方面にも人材を派遣。コードシェア便も増大させています。

2014年末になってやっと大手二社に支援を求めたスカイマークと、いち早く筆頭株主を頼ったスターフライヤー。結局のところ大幅赤字になった時点でどれだけはやく大手を頼ったかが運命の分かれ道となりました。

航空業界の規制緩和は価格競争を引き起こして多少はユーザーに貢献したと言えるものの、新規参入各社が大手の傘の下に入らざるを得なくなった現状を見ると、ただ運賃の値崩れをさせただけだったとも言えます。

いったいなんのための規制緩和だったのかは今となってはよくわかりません。

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