iPadをフライトバッグがわりに使うのはちょっとお手軽過ぎ!?

iPadをはじめとしたタブレットPCの普及には目覚ましいものがあり、例えば最近近所のリサイクルショップで不要なものを買い取りしてもらったときは、半年前には紙の書類に手書きでサインをしていた確認証が、タブレットPCへのタッチペンでのサインに変わっていて驚きました。

さまざまなものが電子化され、ペーパーレス社会が進んでいます。それは航空業界でも同じで、その流れは電子搭乗券のような乗客の利便性を高めるものばかりではなく、運用側にも及んでいます。

旅客機のパイロットは、搭乗時に「フライトバッグ」を機内に持参します。待合室で待っていると、キャビンアテンダントを引き連れたパイロットが、いかにも重そうな黒くてごついバッグを、或いは手に持ち、或いはキャスターでガラガラ引っぱっているのを見たことがある人も多いでしょう。

フライトバッグには、航空図や業務を記録するノート、操縦をするための証明書、マニュアルなどが入っているそうですが、その中でも特にかさばるのが航空図だとのことです。航空図というのは、航路の地図のことで、当然ペラ紙一枚というわけにはいかず、それだけで一冊の本のようになっています。

いわば数冊の本を持ち歩くようなもので、フライトバッグは軽くても15kgほどの重量があり、フライトのたびにそれを持って移動するのは、とても大変なことです。そこで登場したのが「電子フライトバッグ(EFB)」です。

EFBをいち早く導入したのが、アメリカン航空です。アメリカン航空では、2013年の6月にボーイング社の子会社が開発したEFBアプリをインストールしたiPadを全保有機へ導入しています。アメリカン航空によれば、EFBの導入はパイロットの負担を減らすのみならず、重量を軽減できたことで年間にして120万ドルもの航空燃料の節約になるそうです。

ここまで見るとEFBの導入はいいことばかりのように思えますが、もちろんいいことばかりではありません。iPadやiPhone、またはその他のタブレットPC、スマホを使っている時に、アプリが突然落ちたという経験を持つ人は少なくないはず。もし、iPadのEFBアプリに同じようなことが起きたら・・・?

実は2015年の4月に、EFBアプリのアップデートが原因で不具合が起き、使えなくなったために、アメリカン航空の数十にも及ぶ便の運行に支障が出るということがありました。

幸い、それによって大きな事故は起きていません。フライトバッグは紙媒体にしろiPadにしろ、パイロットをサポートするものに過ぎず、仮にEFBアプリが使えなくなっても飛行機の運行に大きな問題はないと主張する専門家もいるようですが、しかし、これが紙媒体のものを使っていたなら数十もの便が影響を受けるということはあったでしょうか?

もちろん私は電子化自体に反対するものでありません。そもそも飛行機のコクピット自体が相当に電子化されていますから。ただ、専用の組み込みシステムが電子化されているコクピットとは違って、iPadのような民生用コンパチデジタルガジェットをEFBとして使うのはあまりにお手軽すぎないだろうかという感があります。

本気でEFB化を進めるというのならば、専用のEFBコンソールとでも言うべきものを開発し、もっと安定性を高めなければならないのではないかと思います。万が一にもiPadアプリのせいで大きな事故が起こってしまったら、もう取り返しがつきません。

かつてコクピットの電子化を進める過程で、パイロットの操作ミスにより多数の命が失われるという事故が起こったことがあります。そのような過去の事故をもっと重く見て、新しい技術の導入をするときには慎重に慎重を重ねてもらいたいものです。

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