ピーチアビエーションがエアバス機を買う理由

“日本LCC(格安航空会社)元年”と呼ばれた2012年から数年が経ち、LCCという言葉も随分浸透してきた一方で、日本に誕生したLCCは明暗が分かれているようです。

エアアジア・ジャパンは当初全日空と提携して運航していましたが、2013年には早々に提携関係を解消、当時のエアアジア・ジャパンはバニラ・エアへ社名を変更し、運航を継続しています。

新生エアアジア・ジャパンは、2016年からの就航を目指して中部国際空港へ拠点を移しています。

継続している和製LCCはジェットスター・ジャパンとピーチ・アビエーションの2社となりますが、ジェットスターが苦戦を強いられている一方、ピーチアビエーションは順調に拡大しているようです。

LCCでは独り勝ちとなっているピーチの好調さをまさに象徴しているのが、2015年6月に発表された同社のエアバス機購入のニュースです。

フランスのパリで開催された航空ショーで開かれたピーチとエアバスの共同会見にて、ピーチがエアバスの小型機「A320」を3機買い付けることが発表されました。

同社は既に14機のA320を飛ばしているので、3機増えて17機となり規模が拡大するという話かと思いがちですが、そんなに単純なものではありません。

ピーチの井上慎一CEOが自らパリに赴き、エアバスにとってお膝元ともいえるパリ航空ショーで、同社CEOであるファブリス・ブレジエ氏とCOOのジョン・リーヒー氏と調印を交わしたことからも、社として重要なステップアップをしていることが見て取れます。

航空会社による航空機調達方法は、リースと購入の2つに分かれています。

日本であれば日本航空や全日空など、いわゆるレガシーキャリアといわれる航空会社は、ボーイングやエアバスなどいわゆる航空機メーカーから直接購入することが一般的。

レガシーキャリアともなれば一度に購入契約する機数も多くなりますが、メーカー側にも今後の機材更新のタイミングで更に契約を取り付けたいという意図もあることから相当なディスカウントをするといわれています。

また、LCCの中でもジェットスターやエアアジアグループなどのように事業規模が大きい会社であれば、メーカーから直接購入するケースが多く、また相当数の航空機を一括発注するためボリュームディスカウントのような形でお得に機材調達ができるといいます。

一方で、新規航空会社やLCCなどで業績が未だ安定していない状態の場合、航空機リース会社などからリース調達するのが一般的。

リース契約の相手方としては、ノヴァス・アヴィエーション・キャピタルのように、航空会社やオーナー向けに資金調達からリース事業までソリューション提供する独立系のプライベート企業も存在します。

このような会社は、リース先が知名度のある航空会社であり、投資対象物件も航空機というわかりやすい実物であることから、投資先として人気があるようです。

多くの航空会社がリースで機材調達を行う理由としては、リスク軽減が挙げられます。

航空会社は世界中にあり取引先も国をまたぐことが多いため、機材コストや燃油などを含め、取引はドル建てが主となることから、為替リスクが存在します。

特に機材調達については、新造機であれば契約から納品までに数年の時間がかかることになるため、多額の保証金などを積むことも必須となっていますが、LCCなどと契約する場合には大手とは異なり常に資金回収のリスクが伴います。

スカイマークがエアバスA380の導入に失敗したことが代表的な事例といえるでしょう。

スカイマークがA380の契約をした時点では、同社の経営は右肩上がりで年間数十億円という利益を上げていましたが、その後のLCCの本格参入により乗客の奪い合いとなり、当初の事業計画どおり進まなくなってしまったのです。

順調に経営が安定してきたかに見えたスカイマークでさえも、航空機の保有方法は難しい選択だったといえるでしょう。

航空機メーカー側にとっても、経営体力があり実績のあるレガシーキャリアに販売するのとは大きな差があり、経営が安定していないLCCに機体を販売するということは、資金回収ができなくなる可能性を常にはらんでいるということになるのです。

ピーチの筆頭株主は全株式の38.67%を出資するANAホールディングスであり、レガシー・キャリアの後ろ盾がなくはないのですが、如何せん2012年3月に就航したばかりで歴史が浅い点がネックとなるところでしょう。

それでもエアバスがピーチからの直接購入を了承したのは、ピーチを「いつ潰れるかわからない航空会社ではない」と認めた信頼関係にあるといえるでしょう。

メーカーのエアバス側だけでなく、ピーチ側にもリースよりもリスクが高い直接購入という重要な選択をしたのには理由があります。

直接購入するための資金調達なりキャッシュフローが整い経営体力が備わってきたという証でしょうし、直接購入によるエアバスからのインセンティブももらっていることでしょう。

ピーチの経営体力を後押しするのは、堅調な業績です。

2015年6月23日に発表した最新年度決算では、2015年3月期の単独業績では営業利益が28億円と、国内LCCとして初めて営業黒字化した2014年3月期(営業利益20億円)に続き、2期連続の黒字となっています。

2014年はパイロット不足による計画減便が発生したにもかかわらず、平均搭乗率85.9%と前期比2.2ポイントUPしたことが下支えとなり、前年度よりも利益を拡大してしています。

2015年3月期末時点で7億円残っている累積損失についても、突発的な事象がない限り、2016年3月期末には解消できると見込まれています。

もともとLCCは時間に融通が利く人が廉価で旅を楽しむために利用するものという感覚がありますが、最近ではビジネスでも利用する人が増えているとのこと。

関西空港第2ターミナルがほぼピーチ専用で使われていることもあり、車で関空に乗り付けてそのまま海外へ行く場合には利便性が高いということで、もともとの利用者は若い女性やリゾート客だったところ、ビジネス客も利用し始めているそうです。

LCCではローコストを第一としているため、人員の十分な確保が難しかったり、予約数が少ない場合に急にキャンセルするなど不便に感じることも事実ではありますが、ピーチではパイロット不足により2014年に約2,000便もの欠航を出した際にも、早い段階で公表したことにより最小限の影響にとどまりました。

ピーチは新規路線の開拓にも積極的です。

2015年8月からは、羽田の深夜早朝の発着枠を活用して羽田-台北(桃園)便の運航を開始、国内LCCとしては初めての羽田空港参入となります。

また、羽田だけではなく、2015年3月末から成田-新千歳、成田-福岡線を開設、すでに拠点化している関空や那覇に続き、国内の地方都市3拠点を押さえ、今後の路線戦略に向けての布石を打っていますし、2017年夏までには仙台空港を新拠点にするという戦略も表明しています。

こうした堅調な実績と積極的な経営戦略により、エアバスから「信頼」を勝ち取ることができたのではないでしょうか。

今回購入を決定したエアバス機、特に新型A320はLCCの定番となっています。

ガルーダ・インドネシアグループ系のシティリンクはB737からA320へ機材を変更、ルフトハンザ系のジャーマン・ウィングやカンタス航空系のジェットスターなども採用しています。

ボーイングの同サイズの機体に対してエアバス製の採用が多い理由としては、パイロットの訓練コストや整備コストが他メーカーに比べると低いとされていること、エアバスの工場はフランスとドイツと中国にあるため、世界各国からの調達がしやすいという点が挙げられます。

資金に余裕があり、なおかつ直接購入できるだけの信頼を航空機メーカーから得ることができるなら、インセンティブの可能性も含めて、A320を新造機で購入するというのは極めて合理的な判断といえるのです。

LCCというと「格安航空会社」という安かろう悪かろう的な日本語になりますが、ピーチはもはやその枠を脱しつつあるのかもしれません。

交通インフラとして、過度ではなく必要なサービスを適切に提供する航空会社として利益を上げていく経営モデルとして評価される時期にきていると思います。

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