旅客機に飽きた皆さま、「IFE」をどうぞ・・・

旅客機を見るだけで嬉しい、何度乗っても楽しい、機体をさわったりいじったりしているとテンションが上がる。そういう人ならともかく、国際線の長時間のフライトは、ほとんどの人には辛くて退屈なものです。

そこで欠かせないのが、機内のエンターテイメント機器「IFE(In-Flight Entertainment)」

強引に翻訳すると「フライト中のお楽しみ」の意味となります。映画を見たり、音楽や落語を聴いたり。最近ではマンガなどの電子書籍を読める旅客機も登場しました。

純粋に娯楽設備であり、航空機の操縦とは関係ないのですが、徹底して電子機器であることから、アビオニクスの一部として考えることがあります。

かつては旅客機内の娯楽といえば「映画」でした。

1992年の飛行機映画「紅の豚」は優雅な映像で知られていますが、劇場公開よりも早い日程で、日本航空での機内上映が開始されて話題となりました。そもそも「日本航空での機内上映用」として作られた映画であり、後日、劇場での上映も併行して行われることが決定した映画です。

映画鑑賞が「めったにできない贅沢な娯楽」だった時代なら、それでも良かったのですが、時代が進むと「個人それぞれの好みに関係なく、乗客全員が同じ映画を見なければならない」という不満が出るようになりました。

映画やビデオが安価以下になり、贅沢品ではなくなっていく一方で、航空機が大型化の時代を迎えていきます。

機種によっては500人を超える乗客が搭乗するようになり、そこまで人数が増えると「乗客全員の興味や関心が一本の映画に集中する」ことは想定しにくくなったのです。

現在は「乗客それぞれが好みのエンタティメントを選べる」ことを優先するようになりました。
各座席に小型の液晶テレビを設置し、乗客は自分の関心の高いジャンルだけを選んで観ることができるようになっています。

IFEは液晶テレビやLANケーブル、サーバーなどが主な構造であり、一つずつの設備の重量はそれほどでもないのですが、500余りの全座席にそれが設置されているのですから、設備の規模としては大きくなります。

航空機の操縦に関係ない設備でありながら、アビオニクスとして無視できないとされるのは、設備の規模やコスト、フライトへの影響が大きいのが理由かもしれません。実際に、エアバスA380の供給が遅れたのは、IFE関連の配線が設計よりも重量超過したのが原因と言われています。

戦闘機の機種によっては、製造コストの80パーセントがアビオニクスです。

旅客機のIFEの場合、そこまでのコストになるとは考えにくいのですが、年々内容が充実していますし、今後も航空会社が新たなエンタティメントを競って提供し続けるとなると、なんらかの影響が出てくるかもしれません。

たとえばJALのボーイング767-300ERでは、最新型IFE「MAGIC-V(マジック-ファイブ)」の導入を発表しています。

IFEだけでなく、それを楽しむシートもプライベートソファを目指しての新シート。名称は「JALスカイリクライナー」、座席ピッチ51インチで優れたくつろぎの空間を作り出しています。シート全席にパソコン用電源と小型液晶テレビがあり、モニターは10.6インチに拡大。

IFEの本体である「MAGIC-V」では、より高性能で美しいグラフィクス、臨場感たっぷりのゲームが、フライト中存分に堪能できるようになりました。

とくにゲーム好きではないという方には「Video Input」があり、持参したiPod、デジカメ、ビデオカメラなどを接続し、モニターして楽しむことができます。映像好きの方には「Picture In Picture」。映画やビデオを視聴しながら、同時にフライトマップを見ることができます。

ですが実は「MAGIC-V」発表は2010年で、古い情報です。今後の旅客機のシートとIFEがどれだけ進化していくのか、見当もつきません。

しかしIFE強化は、機体の重量増加、燃料コストの増加につながるのも現実です。機体の軽量化などで言われてきた「環境にやさしい航空機」とは逆行する流れとなります。

IFEの機能を充実するために構造を大型化しても、配線の数や長さが増えたとしても、1シートあたりの重量は比較的軽いものです。ただし、機能充実の内容や機種によっては、その500倍以上の重量が機体全体にかかる可能性があります。

客席からは見えない部分ですが、500座席分のモニターやIFEを動かすには、膨大な規模の配線が必要となるためです。合理的で効率よい配線が課題となりますし、配線の種類や数・長さが膨大になってくると、確率的に「きちんと接続できているのに、どういうわけかモニターに映像が出ない」といった出来事が起こりやすくなってきます。

乗客にそういった確率を味わっていただくわけにはいきませんから、綿密なメンテナンスも必要になってくるのです。

それに、加工かなにかしなければ、電線の周囲には電磁波などが発生するものです。

現代の航空機は「電子機器のかたまり」と言われるほどに大量のアビオニクスを積み込んでいます。IFEの設計を誤ると、操縦に必要なアビオニクスに影響が出てしまう可能性は常にあるのです。

パイロットの操縦に欠かせないアビオニクスと、乗客の搭乗に欠かせないアビオニクスの折り合いをどうつけるか。

双方とも進化が激しいだけに、今後の展開がどうなるか心配な部分もありますが、旅客機内で映画館気分、ゲーセン気分、旅行で撮影してきた写真をモニターしながら帰宅へ向けてのフライト。

「IFEなしの旅客機なんて考えられない」という方も、多いのではないでしょうか。

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