空の上で一杯、といきたいものですが・・・

2002年2月、ユナイテッド航空の珍事です。

旅客機は、オランダからアメリカに向かう途中でした。その機内には、ロサンゼルスでのコンサートに出演するため、ロシアの国立楽団「サンクトペテルブルク交響楽団」の団員90人ほどが乗っていました。100年の歴史を誇る、有名な楽団です。

彼らが離陸後、手荷物に入れていたウォッカを飲みはじめました。ロシアの皆さんは、ウォッカはもっぱらストレートで飲むそうです。

酔った勢いで大声でわめいたり、客席で騒いだり、そんな酔っぱらいが90人ですから、機内は大騒ぎとなりました。乗務員が注意しても聞きません。周りの乗客も迷惑です。

フライトの途中の経由地のワシントンで、パイロットが判断し、全員が強制的に降ろされました。

ワシントンに一晩泊まって酔いがさめると、団員たちは、翌日は打って変わってマナーのよい「模範客」となり、目的地のロサンゼルスまで、おとなしくしていたそうです。コンサートはロサンゼルスからスタートして、全米を巡回。珍事の直後にも関わらず、見事な演奏で大好評。

ともかく、フライトでの困りものは「酔客」。

狭い機内で、狭い座席で、きゅうくつに座っているのに、すぐ隣の客が酔って騒ぎはじめたら、不愉快なだけでなく、気疲れもしてしまいます。問題はそれだけでなく、上空の旅客機でアルコールを飲むと、地上よりずっと酔いが早いのです。これは、気圧の差が原因となっています。

これについては、アメリカのオクラホマ航空医学研究所が、二つの環境を作って、実験したことがあります。

ひとつは、1万フィート(約3050m)の上空。もうひとつは、1万2000フィート(約3660m)の上空。

それと同じ状態に気圧を下げた部屋で、飲酒してもらいます。地上で飲んでいる時と、酔い方がどれくらい違うか、実験するためです。

楽しそうな実験ですが、それどころではありませんでした。

飲酒後の血中アルコール濃度、つまりどれくらい酔ったかの数値ですが、地上では血液100ml中50mgだった人が、1万フィート上空では95mg、1万2000フィート上空では倍の190mgと計測されたのです。

地上では「50」だった酔いが、上空では「95」「190」だったということになり、気圧の低い上空の酔いが、いかに早いかが判ります。

ジェット旅客機は、国内線では7000~9000m、国際線では1万1000m~1万3000mくらいの高度を飛んでいます。機内は与圧されているので、高度でいうと1500~2400m上空の気圧になっているのですが、それでも酔いやすさは「地上の2倍弱」といったところでしょうか。

「旅客機で青空を眺めながら一杯」とか、人によっては「乗り物酔いをしたくないから、たくさんお酒を飲んで酔って寝てしまおう」と考える方がいますが、そういった理由で、あまりお勧めできるものではありません。

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