飛行機が実用化されるまでに行われるテストとは?

工業製品というのは、その大小を問わずに製品テストが行われます。とはいえ、作られた製品全てをテストするわけにはいかないので、一定の割合で抜き出した製品をテストして、問題があるか否かを確認します。

当然、テストを受けなかった製品に不具合が出ることもあるので、メーカーはそういう場合は不良品を引き取るということになって、それが後の製品に反映されたりもします。

しかし、これが飛行機となるとそうはいきません。特に旅客機などの場合は不具合が出て墜落したから新しいのと取り替えましょうという訳にはいかないのは当然のこと。ということで飛行機は製造された全ての機体が厳密なテストを受けることになっています。

飛行機のテストは、できあがったら『はい飛んで試してみましょう』というやり方はとらず、まず地上での強度試験が行われます。強度試験には静強度試験と疲労試験の二つが行われます。

・静強度試験

これは飛行機の機体が安全な飛行をできるだけの強度を持っているかを確認するための試験。設計時点で定められた荷重の限界を実際に機体にかけることで、本当に機体がその荷重に耐えられるかどうかをテストします。

・疲労試験

飛行機というのは使い捨てではありませんから、飛んだ分だけ、想定しているあるいは想定以上の荷重を受け続けることになるわけです。

静強度試験で一回分の荷重に耐えられたとしても、それが何度も繰り返されると耐えられるかどうかはわからないため、静強度試験をクリアしたら今度は同じ荷重を何度もかけるテストが行われます。

行う回数はその飛行機の用途によって変わってくるので、設計の段階で回数を決めておきます。

ちなみに、静強度試験と疲労試験、そしてその後に行われる飛行試験ではそれぞれ同型の別の機体を専用に使います。特に強度試験は機体の限界まで荷重をかけるので、荷重がかけられた機体をそのまま飛行試験に使うのは自殺行為です。

強度試験も、ただ荷重をかけて「壊れなかったね、よかったよかった」では済みません。

強度試験を行う機体には要所要所にセンサーが設置されていて、壊れたり変形した場合はどこにどれ位の負荷がかかったのか。問題なかった場合もどの部位がどれぐらいの負荷に耐えたのかといったデータを取っています。こうしたデータは当該機種のみならず、他の機種の設計などにも役立てられます。

静強度試験をクリアすると今度は飛行試験が行われます。疲労試験は何度も行うため時間がかかるので、飛行試験は疲労試験の終了を待たずに同時進行で行われます。

当然のことながら、飛行試験は事前にどのようなテストを行い、どのようなデータを取るかをしっかり決め、綿密な計画を立ててから行われます。飛行試験用の機体には強度試験と同様に各所にセンサーを取り付けておきます。

このセンサーはデータを無線で地上に飛ばすようになっていて、地上では試験中のデータをリアルタイムで受け取ります。

また、操縦席の計器の情報も同様に受け取っているので、テストパイロットが設定通りの操縦を行っているかどうかを監視し、設定と異なっている場合は地上から指示を出すようになっています。

このような通信技術がなかった時代は、飛行試験はテストパイロット頼みで、測定や評価もテストパイロットが行っていました。

現在のような飛行試験に至るまでに様々なシミュレーションや地上での試験を行い、ある程度安全を確保するという段階が踏まれるようになる以前、1950年代ごろには1週間に1人の割合でテストパイロットが事故死するということもあったようです。

テストパイロットになるためには、航空工学の知識を持ち、試験で得たデータを文書にまとめるといった能力と、飛行試験中に起こったアクシデントに即応できる技術が必要でした。

人類で初めて月面に降り立ったアポロ11号の船長ニール・アームストロングさんは、スペースシャトルの原型の一つでもあるX-15のテストパイロットでした。

危険度が高かったかつてのテストパイロットに比べ、かなりの安全性が保証されている現代のテストパイロットですが、しかしそれでもアクシデントがまったく起こらないという保証はなく、また厳格さを増した飛行試験の条件に合わせる高度な操縦技術も必要なため、決して以前より楽な仕事ということにはなっていません。

試験機をいくつも建造する莫大な費用、繰り返し行われる強度試験や飛行試験、そしてそれらを行う技術者、テストパイロット、これらの人や物に支えられ、我々は安全な空の旅を楽しむことができるのです。

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