旅客機のドアが飛行中に絶対開かない理由と仕組み

旅客機が電車や自動車などの乗り物と大きく異なっているのは「胴体にむやみに開口部をつくってはならない」ということです。電車や自動車は、乗り物の中と外の環境が極端に違ったりはしませんが、飛行中の旅客機はそうはいきません。

機内外の環境の違い(気圧・温度など)があまりにも大きいため、機内と外の世界を橋渡しするような空洞をつくれば、機内の環境を損ねるばかりか、機体にダメージを与えるなど、大きな事故につながります。

ですから、コックピットの窓の一部を除き、窓は開かないしくみになっていますが、ドアだけは「開かないしくみ」にはできません。もし旅客機のドアを、窓と同じ開け閉めできない構造にしたら、乗員も乗客も、誰も乗り降りできないことになってしまいます。

それに、旅客機を出入りするのは人間だけではありません。客室サービス用の機材など品物の出し入れがたくさんありますし、地上ではスムーズに開き、飛行中はきちんと閉じることができるドアが必要になります。

実際、旅客機にはさまざまなドアが設置されています。

乗客に馴染み深いのは乗降用ドアや貨物室ドアですが、ほかにも、ギャレー(調理台)などを搬入出するためのサービス・ドア、緊急脱出用の非常口ドア、目にする機会は少ないのですが、車輪をしまっておく格納室にもドアがありますし、整備士が整備のときに使う点検用のドアもあります。

これらすべてのドアは、上空飛行中には完全にロックし、外気が遮断されていなければなりませんから、外気が入ってくる余地のある、自動車や電車のような、ゆるやかなドアでは不十分なのです。

では、旅客機のドアはどのようなしくみになっているのでしょう。

たとえば、乗降用の出入口ドアは片側が蝶番で留められ、機体の中から外に向かって開く夕イプのものが多いのですが、実はこのドアは内側のサイズは大きく、外側のサイズは小さくなっています。つまり、機外に向かって少しすぼまっていく形をしているのです。

飛行中の機内は与圧されるため、外気に比べて気圧が高くなっています。そのため、機体の中から外に向かう圧力が胴体にかかっているのです。その強さは胴体1平方mあたり6t。縦横1mの板を6tの力で押しているわけで、なかなかの圧力です。これが大型旅客機の出入ロドア1枚あたりだと12tにもなります。

この圧力を受けてドアは外に押されていますが、開口部がドアのサイズよりも小さいため、ドアが機外に飛び出す心配はありません。むしろその圧力のおかげで、ドアが開口部に隙間なくぴったりと押しつけられて、機内の気密性が高く保たれているのです。

ところで、開口部よりも大きなサイズのドアなのに、なぜそれを外側に開くことができるのでしょう。

ドアの内側中央にはハンドル(レバー)がついており、これを回すと、ドアは一度機内に引きこまれます。このとき、ドアは開口部に対して斜めに傾くようになっており、その傾いた姿勢のまま外に押し出すと、小さめの開口部でもすんなり通り抜けられるのです。

引っ越しなどで、小さなドアから大型家具を搬入するとき、運送屋さんが家具を斜めに傾けてドアを通過させるのと同じ理屈です。

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