航空・宇宙技術に多大な貢献をしている3Dプリンター

3Dプリンターというと、数年前に実弾を発射できる拳銃をプリントしたとして逮捕者が出たということがありました。最近のドローンにしろ、新しい技術を悪用しようとする人はいるもので、ただ、そういう悪用した事例ばかりをセンセーショナルに取り上げる日本のマスコミというのは、報道機関としてどうなんだろうと疑問を抱かずにはいられません。

それはさておき、その3Dプリンター、普段から関わっている人にとってはあたりまえなのでしょうが、門外漢からするとすごく進歩し、そして利用も広がっているようです。特に、航空分野での活用が著しくなっています。

金属3Dプリンター

航空機部品のような工業分野で3Dプリンターが使われるようになったのは、金属3Dプリンターの精度が上がり、逆にコストが下がってきたからです。

金属3Dプリンターは、「粉末焼結」という方式で立体物を造形します。金属3Dプリンターの場合は金属の粉末をレーザーで溶かし、入力された3Dデータに従った形に固めます。最近では電子ビームを使う方式も開発されており、レーザー式よりも電子ビーム式のほうが立体物の強度を強くできるのだとか。

レーザーだのビームだの、もはやロボットアニメの世界になっています。

これまで、金属部品は主に鋳造によって製造されてきました。鋳造というのは、溶かした金属を型に流し込んで固めるという方法です。奈良や鎌倉の大仏様も鋳造で作られていることからも分かる通り、非常に歴史ある金属加工法です。

しかし、鋳造には型を壊して製品を取り出すときに大量の粉塵が出るという欠点がありました。ところが、金属粉を溶かして固める3Dプリンターには型が必要ないので、粉塵が出ることはありません。その上、3Dプリンターでは鋳造では使えない材料を使い、鋳造ではできない造形もできるので、同じ部品を作っても軽量化できます。

3Dプリンターでコスト削減

工業分野では、3Dプリンターは当初、主に試作品の製造に使われていました。3Dデータさえあれば造形できる3Dプリンターは、これまでなかったような部品も新しい金型などを作らずに簡単に作れるので、試作品製造のためのコスト削減になるし、製造技術的な制約で作れなかったような複雑な造形も実現できるということで歓迎されました。

さらには、一つの部品を作るために鋳造では製品重量の数倍の原料が必要であるのに対し、3Dプリンターでは1.5倍ほどで済み、また、製造時間も大幅に削減できるので、実際の製品に使う部品の製造でもコスト削減になるとして期待されています。

すでに実際の部品が作られている

金属3Dプリンターの普及は、試作品のみならず、すでに製品部品の製造にも用いられるレベルになっています。ゼネラル・エレクトリック社は、2015年の4月にアメリカ連邦航空局から3Dプリンターで製造した温度センサーの認可を受けています。この温度センサーはボーイング777に設置されます。

フランスのエアバス社は、自社で3Dプリンターによる機内部品製造の研究を行っていて、今のところ機内厨房で用いる金属器具などが作られているようです。

温度センサーや厨房器具は小さなサイズのものですが、3Dプリンターで製造できるのは、そうした小型だったり精密だったりする部品だけではありません。イギリスのBAEシステムズ社は、戦闘機の着陸装置カバーなどを3Dプリンターで製造している上、ロールスロイス社はニッケル合金が原料の直径1.5mあるエンジン部品を製造しています。

ロールスロイス社の1.5mある部品は今のところ3Dプリンターで製造したものとしては最大で、スウェーデンのメーカーが開発した電子ビーム式3Dプリンターにより作られました。

ちなみに高級車メーカーとして知られるロールスロイス社は、創業当時から乗用車以外に航空機のエンジンも製造していて、最近ではA380のエンジンの燃費の悪さに業を煮やしたエミレーツ航空が、自社所有機に独自にロールスロイス社製のエンジンを載せ替えたりしています。

国産ジェットエンジン開発の強い味方

独立行政法人 宇宙航空研究開発機構=JAXAは、ロケット打ち上げ失敗だとか職員の逮捕など、例によって悪いことばかり取り立てて取り上げようとする日本のマスコミのせいで、不当に低いイメージが流布しているように思えますが、実は非常に優秀な研究機関。

JAXAでは現在ロケットなどの宇宙関連技術のみならず、国産のジェットエンジンの研究もされています。そして、そこでもまた3Dプリンターが活躍しています。

ジェットエンジンの研究開発というのは、もちろん実物大のものを作って行うわけではなく、小型の模型を作って実験を繰り返し、データをとっていくわけですが、実験によって不具合が出たり、新しい発想や技術を試そうという場合には、模型を作りなおさなければなりません。模型といえども直径1mはあるというサイズ、しかもワンオフです。いちいち設計図をひいて外注していたら時間も費用も膨れ上がります。

しかし、3Dプリンターの導入によって模型製造の時間とコストを削減でき、研究スケジュールを短縮できます。JAXAでは現在、エンジンを覆うカバー「ナセル」を3Dプリンターで製造しています。

宇宙開発分野でも利用

スペースシャトル計画が終了した後、NASAは民間宇宙輸送会社のスペースX社と契約を結びました。スペースX社は2015年1月までに無人輸送ロケット「ドラゴン」を用いた国際宇宙ステーションへの物資輸送を行っています。

2014年9月の4回目の輸送では、物資の中に3Dプリンターが含まれていました。これは、現在の指揮官であるバリー・ウィルモア船長が、地上基地との通信でふと、ある工具が必要だと漏らしたことに対応したもので、ステーションへ設置後地上基地から3Dデータが送られ、それで必要な工具を製造することに成功しています。

これは、単に必要な道具の輸送コストを削減できるというだけのみならず、今後の宇宙開発において、宇宙空間で必要な道具や部品などを作ることができるようになったということです。今はまだ小さな工具や部品を作れるだけですが、この技術がより進歩すれば宇宙空間で宇宙船を建造するということが可能になるかもしれません。

3Dプリンター技術にはこのように、大きな可能性と夢がつまっているのです。

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