現在の旅客機は人力では操縦不可能!?

「パイロットが握るものは?」といえば、「操縦桿」に決まっています。ただし、「操縦桿」というのは、パイロットが膝のあいだで動かす棒状のもの(桿=スティック)で、軍用機などに使われていますが、最近の大型旅客機にはありません。

旅客機に使われているのは「操縦輪」と呼ばれるもので、自動車のハンドルに似た形をしているところから「輪=ホイール」といわれています。

ドライバーにとってのハンドルと同じ役割をもつ操縦桿に「もしも」の事態が起きたら、どうなるのか。自動車を運転している途中でハンドルが利かなくなったらどうなるか、それを想像すれば、おわかりいただけるはずです。つまり、「非常事態」です。

操縦桿で操作するのは、「補助翼」と「昇降舵」です。たとえば、操縦桿を右に傾ければ(回せば)、右の主翼にある補助翼が上がり、左の主翼にある補助翼が下がって、機体全体が右側に傾きます。逆に操縦桿を左に傾ければ(回せば)、左の主翼にある補助翼が上がり、右の主翼にある補助翼が下がって、機体全体が左側に傾きます。

また、操縦桿を前に倒せば、水平尾翼に備えられている昇降舵が下がって機首も下がり、操縦桿を手前に引けば、昇降舵が上がって機首も上向くしくみになっています。操縦桿が動かなくなったりしたら、こうした機体の姿勢のコントロールができなくなってしまいます。

1985年8月12日、羽田発大阪行きの日航ジャンボ機(ボーイング747)が相模湾上空で「異変」を起こしたときも、機長と副操縦士の前にある2つの操縦桿が動かなくなりました。原因は、操縦桿を動かす油圧系統に障害が起こったためです。

一般にジェット旅客機の場合、補助翼を動かすために操縦桿にかける力(重さ)は最大45kg、昇降舵にかける力(重さ)は最大136kgも必要だといわれています。もし、油圧装置がなければ、パイロットは機体を傾けたり、機首を上げ下げするために、人力では不可能に近い腕力を出さなければなりません。操縦桿による操作は、ケーブルによって補助翼や方向舵に伝えられるため、相応の大きな力が必要なのです。

機体が大きければ大きいほど、また、ケーブルが長ければ長いほど大きな力が必要になります。現代の旅客機はもはや人の手に負える大きさではありません。そこで、油圧によって、自動車のパワーステアリングのように、操縦桿を動かす力は小さくてすむようなシステムが生まれたのです。油圧の助けがなければ、旅客機の操縦桿など、ビクとも動かないはずです。

ジャンボ機の場合、油圧システムは4つあり、駆動ポンプは10台備えられています。そして、それぞれの補助翼や方向舵には、複数の油圧ポンプから油が供給されています。1つのポンプが故障しても、他方から供給が受けられるようにするためです。油圧装置は、操縦桿だけでなく、フラップや方向舵、脚装置(タイヤの出し入れ)、逆噴射装置、ブレーキなどを動かすときも働きます。

つまり、油圧装置が壊れるということは、操縦、着陸、地上走行などのあらゆる状況を困難にしてしまうことになります。旅客機にとっては、「致命傷」です。先の日航ジャンボ機の事故では、機内の圧力隔壁の破壊によって、油圧系統がすべて機能しなくなってしまいました。

複数の油圧系統でカバーするシステムも、この不幸な破損事故には通用しませんでした。この事故をきっかけに、旅客機における油圧系統の重要性があらためて認識させられることになりました。

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