夢の「レールガントレイン」は本当に実現可能?

昭和50年代ぐらいの「みらいのせかい」のイメージには、よく透明なチューブの中を電車が走っているイラストがありました。

昭和54年の24時間テレビで放映された、手塚治虫原作のスペシャルアニメ『海底超特急 マリン・エクスプレス』にも、太平洋の海底にチューブを通して日米をつなげた時速900kmの超特急「マリンエクスプレス」が登場しています。

ただ、このようなチューブの中を走る列車というのは単なる想像の産物ではなく、既に1847年のイギリスで真空チューブ列車の実験が行われたり、20世紀初頭にはアメリカの技術者ロバート・ゴダードがチューブ内を走行するリニアモーターカーの試案を出したりしています。

1970年代には、アメリカのシンクタンク・ランド研究所のロバート・F・ソルターが、鉄の車輪で走るチューブ列車を提案しています。

日本でも昭和34年から真空チューブを走るロケット列車の実験が行われており、実験では時速2,500kmという驚異的な数字が叩きだされたものの、逆に加速度に乗客が耐えられないだろうという問題が発生し、それが解決できないまま実験は中止されました。

『海底超特急 マリン・エクスプレス』の舞台は2002年で、既に13年も過ぎてしまった2015年の今でもそのような太平洋横断超特急は実現していません。

しかし最近、太平洋横断はともかく、チューブの中を走る電磁力カプセル列車の開発を、アメリカの民間宇宙輸送会社「スペースX」のCEOイーロン・マスク氏が発表。

イーロン・マスク氏は南アフリカ出身の起業家で、10歳でプログラミングを学び、12歳で商業ソフトウェアを販売したという天才です。

母親の故郷であるカナダに移住した後は、ソフトウェア会社やオンライン決済会社などを立ち上げ、2002年には民間宇宙輸送会社スペースXを設立。ロケット開発まで行い、ついには2006年にNASAとまで契約するという、非常にアグレッシブな人物です。また、電気自動車会社テスラモーターズのCEOでもあります。一代の風雲児と言っていいでしょう。

マスク氏が開発の名乗りを上げたチューブ列車「ハイパーループ」は、基本的には過去にロバート・ゴダードが提唱したチューブ内を走るリニアモーターカーの案を継承したもので、減圧したチューブの中を電磁力により最大28人乗りのカプセルを走らせようというものです。

マスク氏の構想では、このカプセルは現在日本でリニア新幹線としての運行が予定されている超電導リニアと同様、電磁誘導を応用したシステムのようです。これは簡単に言うと、電磁石の磁力で浮かせた車体(カプセル)を、電磁石に流す周波数を変えることで推進させるというものです。

ただ、マスク氏はハイパーループのイメージを「レールガン」だとしています。レールガンは電磁誘導により弾丸を射出するというもので、日本でもアニメや特撮に登場することが多く、古くは1979年放送の『宇宙空母ブルーノア』に見られます。といってもその名が広く知られるようになったのは、『とある科学の超電磁砲(レールガン)』あたりからではないでしょうか?

もちろん、マスク氏がレールガンと言ったのは、チューブの中を走るというイメージと、リニアモーターカーよりもさらに速い移動システムであることを印象づけるためであって、レールガンのように打ち出しっぱなしということではないはずです。

マスク氏は「ハイパーループ」の実用化の目標を7年~10年後に置いており、目指している最大速度はなんと時速1,200km。ちなみに音速は時速1,225kmなので、もし実現すれば航空機以外で初めて音速に近づいた移動手段になるでしょう。「ハイパーループ」が仮に日本で運行された場合、東京-大阪間を20分で移動できるといいます。

ただ、このような夢の交通システムが10年後に実際に運行できるかというと疑問です。まず、なんといってもチューブの問題です。

超高速交通システムに求められるのは当然長距離移動でしょう。しかし、どこにチューブを建設するのか?当然地上に置くわけにはいかないでしょうし、地下への設置はコスト的に考えられません。とすればやはり高架ということになるのでしょうが、高架にするにしてもはやり支柱を設置する土地は必要となります。

また、真空に近づける減圧と、外側の気候変動、さらにはカプセルが走る衝撃に耐えるだけのチューブを本当に開発できるのかという問題もあります。

さらに、最大の問題は乗客にかかる加速度をどうするかです。日本で実験されていたロケット列車も結局それを解決できないまま計画が頓挫しました。最高時速500kmほどで走るリニアモーターカーは、その速度に達するまでは0.2G程度の加速度に抑えながら加速していくので、乗客への負担はほとんどありません。

しかし、「ハイパーループ」がマスク氏のイメージのような「レールガン」的な加速をするのであれば、相当な加速度がかかるはずで、マスク氏の発言はそこまで考えたものなのでしょうか?

この他にも実用化には様々な課題が待っています。日本のリニアモーターカーが実用化までに数十年かかっていることを考えると、いずれ個々の問題を解決して実用化できる日が来るにしろ、それが10年以内にできるとは到底信じられません。

とはいえ「チューブの中を走る高速列車」というものはぜひ見てみたいという気持ちもあります。拙速に10年後などと言わず、安全性を重視しながら、確実に実用化を実現してほしいと思います。

関連記事

ページ上部へ戻る