航空機リースの種類と仕組み

2015年6月にパリで行われたエアショーで、LCCのピーチアビエーションがエアバスA320を自社購入することを発表し、話題となりました。

そもそも、航空会社が運航する飛行機の保有形態にはどのようなものがあるのでしょうか?

現在では、航空会社の航空機の保有方法としてリースを選択するのは一般的ですが、1980年代の日本ではほとんどが自社購入されていました。

当時の国内の航空業界はJAL、ANA、JASがほぼ寡占状態にあり、航空会社として最大の設備投資となる飛行機の保有は自社購入が当然と認識されていたのです。

購入のための資金は、公的色彩の強い政府系銀行の日本輸出入銀行(現在の国際協力銀行)や日本開発銀行(現在の政策投資銀行)による制度融資で賄われていたとのことです。

更に、売り手側のアメリカではボーイング社の航空機売上を後押しするため、購入者に対して米国輸銀の保証が付くこともあったといいます。

また、日本政府側は当時国営だった日本航空に対して機材調達に政府保証債を発行することもできる立場であったため、短期間の賃貸借リースが入り込む余地はなかったというのが実態でしょう。

その後、投資環境が好転すると、急激な成長をみせた世界のリース会社が市場を拡大して日本市場に参入してきました。

とはいっても、当時大手航空会社側としては1機単位・短期間のリースをすることに対するメリットが認識されなかったため、購入形態のひとつとして「ファイナンスリース」の活用が始まったとされています。

1980~1990年代の日本国内でのリースの形態の多くは、「日本型レバレッジドリース」と呼ばれるもので、広義では自社購入ファイナンスの手法としてとらえることもできます。

このリースは機体を複数の投資家にる「リース団」が購入し、12~15年の長期にわたって航空会社に貸し出し、期間満了時に買い取らせるという形式のものでした。

レバレッジ(てこ)の名前のとおり、リース団に参加する投資家たちは機体価額の20~30%の資金だけを用意して残りは借入金でまかない、その100%を定率で減価償却していました。

つまり、当初の自社の課税利益を圧縮し、税の支払いを繰り延べる間に運用益を稼ぐことを目的とする、いわゆる投資目的のものだったのです。

この日本型レバレッジドリースは為替リスクと機体処分リスクを航空会社が取ることもあって広く世界に浸透し、1990年代には世界の新造航空機の3分の1をカバーするまでにメジャーな手法となりました 。

投資家の税効果メリットの一部をリース料の低減に充てるなど、借り手側にも応分のメリットがあることも広く浸透した理由のひとつでしょう。

しかしその後、税制変更に伴い1998年には外国をまたぐ日本型レバレッジドリースが禁止されることとなり、国内組成も2005年の法改正を以てできなくなってしまいました。

そんな中で市場に広まった次の手法が「オペレーティングリース」です。

日本型レバレッジドリースがいわゆるファイナンスリースであり、金融の性格が強かったのに比べ、オペレーティングリースはリース期間が比較的短く、貸す側である機体の所有者の顔が見える形態となっています。

オペレーティングリースで貸し手側の主役に躍り出たのは、潤沢な資金力をもつ世界のリース会社。

巨大リース会社は、個々の航空会社が購入するよりもはるかに大きいロットで発注する、いわゆる“航空機のまとめ買い”によって航空機メーカーとの価格交渉を優位に進め、需要の高い機体を大量且つ安価に購入したのです。

借り手が決まらない状態で購入することになるため、機体のデリバリーポジション(機体を受け取ることができる時期)は成り行きで決めることとし、あとは航空会社に対して「この時期にこの機体があるので借りませんか」と営業していくビジネス手法となっています。

このやり方は一見リスクが大きいようにも見えますが、人気がなく借りてがつきそうにない機体には手を出さないことである程度のリスク回避はできる上、何よりもリース会社が大量に機材を押さえてしまえば航空機メーカーの生産状況から受給が逼迫し、貸し手優位の市場を作ることができるのです。

これによって、21世紀に入って隆盛を加速させた世界の大手リース会社は、航空会社よりもはるかに高いリターンをたたき出しているのです。

航空会社側にとっても、賃借期間をある程度柔軟に設定でき、購入のために高額な自己資金を調達する必要もないため使い勝手のいい形態であり、これによって中小の新規航空会社の設立や事業拡大には欠かせない手法となっています。

新規の航空会社は当然運航を開始してお客様に乗っていただかなければ収入は入ってこないものの、訓練期間なども含めて就航前には航空機が必要な状態になります。

航空機を保有するにはリースであってもデポジットと呼ばれる前払い保証金が必要となり、航空会社の与信程度により異なるものの、概ねリース料の2~4ヶ月分が相場となっています。

自社で購入することを考えると、新品のA320実勢価格が5,000万ドル程度とすれば、機体受領までに30%を前払金(Pre Delivery Payment)として支払う必要があるため、キャッシュで1,500万ドルが出ていくことになりますが、リース保証金は3ヶ月分で120万ドル程度で済むため、調達すべき資金は10分の1以下で済むことになり、キャッシュフローへの影響も少なくて済むのです。

オペレーティングリースの契約期間は8~10年が一般的で、機体返還時の整備要件(部品・コンポーネントを新品に交換して返却する等)によってはリースバック時に返却整備用の費用として億単位のコストが発生しますが、それを考慮しても就航することを当面の目標とするLCCや新規航空会社にとってはオペレーティングリースのメリットは大きいといえます。

さらに、新しいリース形態として台頭してきたのは「セール&リースバック」という方式。

セール&リースバックは、まず航空会社がメーカーと機体購入契約を結んで前払金を支払い、機体受領と同時にその機体をリース会社に売却、オペレーティングリースを組成するという流れになっています。

オペレーティングリースと異なるのは、リース会社は投機目的として機体を購入するのではなく、航空会社が買うと確約されているものを肩代わりして購入・リース化するという点にあります。

また航空会社側から見ると、オペレーティングリースの場合はリース会社からの差入保証金はリース終了時まで返ってこない上に無金利となりますが、セール&リースバックであれば保証金はリース会社が肩代わりするため、航空会社の手元資金が増えるというのもメリットとなっています。

この方式は、リース会社の安価で大量買いにならずリース料が割高になる傾向があるため、人気の薄い機種や最新鋭の機種が発表された後の型落ち機種で行われることが多いようです。

しかしながら、航空会社が資金調達額を減らすため、またバランスシートを軽くするためには、セール&リースバックでのリース化も選択肢のひとつとして普及してきています。

話は戻って、2015年6月にピーチアビエーションがエアバスA320を3機自社購入することを発表しましたが、これまでの話の流れからすれば、LCCが就航からこんなに短期間で自社購入に至るというのは非常に珍しいことといえると思います。

国内には2000年前後以降、スカイマークをはじめとする新規の航空会社やピーチアビエーションなどのLCCが数社立ち上がっていますが、各社の中で唯一自己資金に余力のある同社にとっては、金利も加味したリースに比べて無利子の自己資本で機材を調達した方がコスト低減につながると判断されたのでしょう。

日本の大手2社であるJAL・ANAでは、ファイナンスリース終了後は資本市場での資金調達も進んだため、航空機の自己購入比率が再び高まり、2014年度時点で2社とも75%が自社購入によるものとなっています。

資産計上不要のリースに対して、自社購入の場合はROA(総資産利益率)が低下するためIRの側面から見た場合のデメリットはあるものの、確実な資産保有と自社仕様へのカスタマイズの利便性などを優先してのことでしょう。

新造機の機材調達についてまとめてみましたが、世界をみると中古機を二次、三次利用している航空会社は多数あります。

中古機マーケットは発展途上国や小規模航空会社が主流となっているため、貸し倒れリスクも高く、リース事業の運営はますます複雑化しているといえるでしょう。

関連記事

ページ上部へ戻る