ANAの航空機整備の仕事が外注から内注へ向かう本当の理由とは

JALが経営破綻する少し前、JALの飛行機が整備不良によるトラブルを起こしたというニュースが頻発していました。

それがJALへの信頼を低下させ、破綻に至るきっかけの一つとなったとも言われています。これは、業績が悪化していたJALがコストダウンのために外部の安い業者に委託していたことが原因でした。

一方ANAも中国などの整備会社に外注をしていましたが、整備不良や故意とみられるコード切断などがあったために、現在では自社の整備スタッフで整備を行う内注化を推し進めています。

ANAにはグループ全体で4,700人の整備スタッフが所属しています。ANAの場合、整備士は午前8時20分~午後5時20分までの早番と、午後3時~午前0時までの遅番を二日ずつ繰り返すシフトで働いています。もちろん彼らは一か所に集まって仕事をしているわけではなく、ANAが乗り入れている各空港で整備作業に従事しているわけです。

始業時間に集合した整備士たちは、作業グループごとのブリーフィングを行ってから仕事に入ります。作業グループというのは、

・運航整備部門:空港に到着した飛行機の点検、整備を行う
・機体整備部門:格納庫に入った飛行機の点検、整備を行う
・装備品整備部門:飛行機の計器類、電子機器類の点検、整備を行う
・原動機整備部門:飛行機のエンジンの点検、整備を行う

という部門に分かれています。また、ANAの整備士には、品質保証、技術、機体・部品計画、戦略といった整備をサポートする仕事も与えられています。

整備作業の間に一時間の休息と食事時間をはさみ、整備記録をつけてからその日の業務は終了となります。

2013年にANAは「アサーション」を取り入れました。

これは、立場の上限の関係なく相手を尊重した上で正しい主張を行うというもので、疑問に思ったことは迷わず訪ね、正しいと思ったことは遠慮なく口にし、その業務のために強く主張せねばならないことははっきり主張するという職場コミュニケーションの手法です。

これにより、上意下達で、上のものが白と言ったら黒いものでも白になるという旧来の日本的な不合理さが排されて、職場の風通しがよくなります。

整備部門も同様にこの「アサーション」が取り入れられています。整備は特に職人的な世界なので、下の者が何かに気づいた時には遠慮なく具申できるようなシステムが必要となります。

さて、空港での飛行機の整備は主に「ライン」と「ドック」に分けられます。

まず「ライン」は運航整備部門が行う整備です。これは、空港に到着した飛行機を次のフライトに間に合うように点検するという作業で、部品交換や小さな不具合の修復などが機種によって30分から1時間の間に行われます。

一方「ドック」は機体整備部門が行う整備のこと。こちらは飛行機を格納庫に納め、機内のパネルやシートを取り外した本格的な整備が1ヶ月程度かけて行われます。

また、「ドック」には三段階があって、飛行時間が375時間~600時間の飛行機は6時間ほど整備が行われる「A整備」、飛行時間が3,000時間~6,000時間の飛行機は、部品を取り外して数週間かけて整備する「C整備」、飛行時間が4年~5年の飛行機は、機体の構造、つまり胴体や羽の骨組みなどの点検と、サビを防ぐ防蝕作業が含まれる「ヘビーメンテナンスビジット」が行われます。

「ドック」整備を行うためには空港に自社格納庫がなくてはいけません。ANAは成田、羽田、伊丹の三ヶ所に格納庫を持っており、機体整備部門の整備士はその三つの空港それぞれに配備されています。

整備士は整備を行った後に整備記録をつけますが、この整備記録により不具合などがチェックされ、対策や予防が行われます。外注に頼らず、自社でこのような手厚い態勢の整備を行う割合を増やしていけば、整備不良といった問題も少なくなっていくでしょう。

ただ、ANAの整備士は総合技術部門として採用されるので、整備の現場で数年間経験を積んだ後は9割の整備士が整備センターでのデスクワークにまわされるとのこと。とはいえ、全人員総入れ替えでは経験の蓄積ができないので、1割程度は現場に残って働いているとのことです。

なお、ANAに所属する4,700人の整備士のうち、女性整備士はおよそ200人と1割に満たない程度。まだまだ「男の世界」といった感じですが、それでも徐々に女性も増えているそうです。

航空法の改正による規制緩和で、日本の航空会社はコストダウンを名目に整備という人の命がかかわる重要な作業を外国に委託するようになりました。しかし、安い値段には安いなりの理由があります。様々な痛い目を見て国内での自社整備を増やしていっているANAですが、それは100%には至っていません。

スカイマークなど後発の航空会社が破綻したり、業績悪化に陥っている今、コスト削減はある程度はいたし方ないのかもしれませんが、削っていい部分といけない部分は明確に分けるべきでしょう。整備コストというのは、JALの例から見ても会社の信用という面からも削ってはいけない部分なのではないでしょうか?

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