バックで移動中の機内では何が行なわれている?

空港のターミナル側に機首を向けて止まっている旅客機が、いよいよ出発するというとき、前進すればビルにぶつかってしまいます。ですから最初は、バックしなければなりません。乗客として機内の窓から見るときは、旅客機がバックしながら静かにターミナルを離れていく様子をあたりまえのことと考えていますが、実は旅客機は自力でバックしているのではありません。これは機内から見ていたのではなかなか気づかないことですが、空港の展望台から見れば一目瞭然です。

機体の前輪に牽引用の棒を装着させたトーイングカー(牽引車)が、機首側から機体を押し出すようにして、バックさせるのです。この方法を「プッシュバック」といいます。プッシュバックは、機長がインターホンで地上に合図を送り、パーキングブレーキを解除することで開始されます。トーイング力ーは、200~300tもある旅客機を押したり引いたりすることができる、大変な力持ちなのです。

では、旅客機が自力でバックすることが絶対にできないのか、という問いには、「不可能ではないが不都合が多い」と答えるベきでしょう。現実には、日本にはない、だだっ広い空港内では、自力でバックをする旅客機もあります。すベての機種というわけにはいきませんが、ボーイング「727」や「DC-9」(マクダネル・ダグラス社製の双発機)では、エンジンを始動させ、逆噴射(リバーサー)をかけると、トーイングカーの助けを借りずにバックすることができるのです。

ただし、逆噴射の音はすさまじく、前方に噴き出す排気もものすごいため、狭い空港内であれば、支援車両や機材、照明灯などに支障が起こることは避けられません。また、たとえ自力でバックができるといっても、自動車運転のような「車庫入れ」や「縦列駐車」は不可能。

最大の問題は、パイロットのいるコックピットから旅客機の後方を見ることができないということです。

トーイングカーに押されて旅客機がバックしているあいだ、パイロットはエンジンを始動させます。ジャンボ機(ボーイング747)の場合、エンジンは全部で4つありますが、通常は進行方向右側のエンジンから順次スタートさせます。エンジンスタートレバーは右から「4、3、2、1」と並んでおり、機長がこれに手を添えるのに合わせ、副操縦士がエンジンスタートスイッチを入れると、エンジンが回転しはじめます。

駐機場の端まで来ると、地上の航空整備士からの要請があり、機長がパーキングブレーキをオンにして機体を一度停止させます。ここで、トーイングカーにつながれていた牽引用の棒が前輪から外されます。

さらに、整備士が電気コードのジャックを機体からとり外し、「すべてのとり外し終了」のメッセージを伝えます。このあとは、旅客機が自力で前進しながら、離陸のため滑走路へと向かうことになります。滑走路までの道のり(誘導路)を移動することを「タキシング」(地上滑走)といいます。

タキシングの許可が降りると、機長はパーキングブレーキを解除し、自動車のアクセルペダルにあたる「スラストレバー」を右手で前に押し出します。すると、エンジンがパワーアップし、自動車でいえば「吹かした」ような状態になります。タキシングには、この最初に吹かしたパワーを利用すれば十分で、あとはアイドリング状態で走りつづけることができます。タキシング速度の上限は約20ノット(時速約37km)という「ノロノロ運転」です。スピードを落としたり、停止するときには、パーキングブレーキを使って調節します。

ところで、飛行機が機首の向きを変えるために旋回したりするときは、どうしているのでしょうか。地上での旋回の操作は、機体前輪にあるステアリングで行ないます。この点は自動車と同じ。

コックピットにはステアリングハンドルがあり、これで機首の向きをコントロールします。ただし、ステアリングハンドルは、自動車のように輪になったものを両手で操作するのではなく、片手で扱うもので、操作は難しいようです。特に長い機体の場合、旋回時に横向きの荷重がかかるので、「急ハンドルを切る」というわけにはいきません。動作はすべて「ゆっくり」が基本。

ただし、ハンドルを切る位置の決め方は自動車と似ています。たとえば、「窓枠のこの部分に誘導路の中心線が見えたら、ステアリングハンドルを切りはじめ・・・」というように、飛行機のある部分と景色の見え方を関連させて記憶しておき、操作するのです。自動車教習所で「車庫入れ」を練習するとき、「何番目のポールが見えたらハンドルを切りはじめる」と教わったことがある人なら、その理屈がおわかりいただけるのではないでしょうか。

関連記事

おすすめ記事

ページ上部へ戻る