放射線の影響を受け続ける過酷な職場でもある航空機の実態

「空の上」というのは、なんとも過酷な職場です。数百人もの人命を預かり、時差に悩まされ、普段の生活もかなり節制しなくてはフライトに影響するか、もしくは搭乗できなくなくなってしまうなど、ストレスの種はあちこちに散在しています。こうした問題以外にも、「自然の脅威に最もさらされる環境」であることも見逃せません。

それが「放射線被爆」という問題です。

放射線とは、放射性物質から放出されたエネルギーが粒子または波動となったもので、RTアルファ線、べー夕線、ガンマ線などの種類があります。病院で受けるレントゲン(X線)もPA放射線の一種。

放射線が人体へ与える影響を表わす単位は、シーベルト(SV)と呼ばれ、通常人間が1年間に浴びる自然放射線の量は、世界平均で約2.4ミリシーベルトとなっています。このうち、宇宙からやってくる「宇宙放射線」によるものが約0.4ミリシーベルトで、これが「空の仕事」をしている人間にとって問題視されているものです。

宇宙放射線は、それを浴びる高度や地域によって受ける放射線の量が異なるという性質を持っています。ちなみに高度1万メートル上空では、放射線の強さは地上に比べて約100倍近くにもなり、また北極・南極などの極点に近いほど、磁力の関係で強くなります。

では、航空機を放射線から遮断してしまえばいいと思われるかもしれませんが、これが難しいのです。通常、放射線保護に用いられる鉛シールドは、重量がありすぎるうえに、高工ネルギーな宇宙放射線を遮るには効果の面で不安が大きい。そこで軽い素材による厚手の防護膜のようなものがあればというところですが、ジャンボの大きさからみて、現時点では不可能とされています。

国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告などからも、現在、どの程度の放射線被爆で、どういった症状が起こるかという因果関係は立証されていません。ですが、一般の乗客にとっては、さほど深刻に考える問題ではないという見解が多く見られています。ところが、年に数十回以上も極点付近を、高度1万メートル近くで飛ぶパイロットや客室乗務員にとっては、無視できない問題といえます。

現在、放射線医学研究所などが、航空機における放射線についての調査や研究を進めていますが、はっきりした答えが出るのはまだ先になりそうです。

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