飛行機の安全性はどこまで信じればいいのだろうか

2015年も半分を過ぎた時点で、相次いだ航空事故によって多くの命が失われた2014年と比べると、この6ヶ月間に起きた5件の事故の中で、人命が失われたものは2件。失われた命が二度と戻らないことを考えると、件数が少ないからいいというわけではないとはいえ、概ね安全な航空機の運行が行われていると見ていいでしょう。

航空会社や旅行代理店で構成される民間業界団体「国際航空運送協会=IATA」が発表した2014年のセーフティレポートによれば、2014年1年間の全世界での総フライト数はおよそ3,800万回で、死亡事故は12件でした。3,800万回の中でわずか12件と考えると、自動車と比べても空の旅は非常に安全であるという言い方もできるでしょうし、現に、飛行機が安全であるとアピールしたい人は、このようなデータを持ちだして根拠としています。

ただ、法律の範囲内であれば道路を自己判断で自由に走れる自動車と、綿密な飛行計画と管制の指示に従って飛ぶ飛行機では運用されている条件がまったく違うので、それを単に数字だけで比べることに意味があるかどうかはわかりません。

2015年に入って初めての死者が出た航空事故は、2015年2月4日に起きた台湾国内線のトランスアジア航空235便墜落事故でした。この事故では43人の方が亡くなっています。7月に入り、台湾飛航安全調査委員会は事故について、パイロットの操縦ミスが事故原因であったとする報告書を発表しています。

この事故で使われていたのはATR 72という双発プロペラ機でした。ボイスレコーダーには、間違ってスロットルを閉じてしまったという機長の叫び声が記録されていたといいます。トランスアジア航空は昨年にも視界不鮮明による着陸失敗が原因の墜落事故を起こしており、このとき用いられていたのもATR 72でした。

同じ航空会社の同じ機材が、二年続けて墜落事故を起こしたことで、トランスアジア航空が危険な航空会社だというイメージを持ってしまった人もいるかもしれません。しかし、実は同社が起こした事故としては昨年の事故が1958年に起きた水陸両用機墜落事故以来58年ぶりのことで、それまでは安全な運行を行っていたことにも触れておかないと客観的な評価はできないでしょう。

一方、2015年3月24日に起きたドイツのジャーマンウィングス9525便墜落事故では、乗員乗客合わせて150人もの方が亡くなっています。こちらは、事故後の調査により精神を病んでいた副機長が人為的に起こした墜落事故だったことが判明し、全世界に衝撃を与えるとともに、様々な問題提起もなされています。

2015年上半期中に起きた2件の死亡事故のうち、注目しておくべきなのはやはりジャーマンウィングス9525便墜落事故だと思われます。トランスアジア航空の事故は単純に技術的な問題が原因でしたが、こちらは事故の原因に様々な要因が含まれているからです。

ジャーマンウィングスは、ルフトハンザ航空傘下のLCCです。機体を故意に墜落させたとみられる副機長は、自ら精神科医を受診し、搭乗不可と診断されるほど病んでいました。ところが会社では精神鑑定を行っておらず、この人物の病状も把握していなかったようです。

また、この副機長は周囲の人物に報酬の低さと勤務時間の長さに対する不満ももらしていたといいます。

複数の飛行機の操縦席を奪われ実行された911同時多発テロ以降、旅客機はセキュリティー強化として、操縦席には外側からパスワードを入力しなければ入れないようになっていますが、パスワードを入力しても操縦席側からロックを維持できるシステムもついています。これは、何らかの手段でテロリストがパスワードを入手したことを想定してのものだと思われます。

ところが、ジャーマンウィングスの事故では副機長がそのシステムを悪用し、機長がトイレに立った隙にドアをロックして閉め出してから、故意に機体を急降下させたと見られています。いわば、籠城戦に強い城をつくったら、臣下が内側から火をつけたためにどうにもならなかったようなものです。

ここから見えてくるのは、コスト削減のために精神鑑定を省き、パイロットの給料を下げながらも長時間の勤務を強いるという、競争原理優先のLCCの経営上の問題です。競争優先の経営体質が、この事故を起こした遠因でもあったというのは言い過ぎではないはずです。

日本では一般航空会社、LCCに限らずパイロットの定期的な精神鑑定が義務付けられています。また、LCC各社も日本の航空法に従って必要な整備を行っています。世界的に見ても遵法精神が高い日本では、LCCであっても海外の会社より安全度は高いと言ってもいいと思われます。

ただし、日本はLCC先進国である欧米よりもLCCのシェアが非常に低いので、これからさらにLCCの便が増え、新規の会社も参入してくることが予測されます。そうして欧米並みの競争が生まれた時に、ジャーマンウィングスを墜落させたパイロットのような不満が出ないか、海外から参入してくるLCCの安全性を信用していいものなのかというような懸念はあるはずです。

そのような懸念については、楽観視せずきちんと対策を考慮しておかなければ、想定外の事故が発生する確立は高くなっていくでしょう。

そうはいっても我々はすでに飛行機のない社会で生きていくことはできません。旅行では飛行機に乗らないという人でも、仕事では乗らざるをえないということもあるはずです。

であるからには、「航空機事故は起こりにくい」というデータをある程度信じながら、航空会社安全ランキングや、航空ジャーナリスト、航空ファンなどの評価を参照しつつ、自分の中で折り合いをつけながら利用していくしかないのかもしれませんね。

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