航空機のリース市場が「日本だけで」急速に拡大中の訳とは

航空機リースの需要は、近年、世界的に拡大の一途をたどっています。航空機は1機数十億円の高価な商品なので、リースによる航空機の保有は、航空会社にとって欠かせない調達手段なのです。

ですが、リース需要拡大の理由はそれだけではありません。日本で航空機のリースが非常に活発になっています。

2013年、世界中で行われた航空機調達の契約は約650件ですが、その15パーセントが「日本の航空機リース」に関して行われた契約。その大半が、航空業界と関係ない建設会社などが航空機を購入し、アジア圏の航空会社にレンタルするというようなケースです。

ここまで取引が活発化したのは、日本で航空機のリースにたずさわると、法人税・相続税・贈与税を節税できるから。航空機リースに関する税金の制度を応用したもので、日本では1985年に開発され、現在も活用され続けています。要するに税制の抜け穴なのですが、国税庁は常に人手不足といわれるだけあって「この抜け穴をふさぐための人員がいない」と認めているとのこと。

たとえば会社経営をしていて、リーマン・ショックで経営難になったけれど、大震災の復興特需で会社を立て直し、利益を出すことができたとします。時期的な順番として、復興特需が終わるころに、2012年4月からの復興増税が来ることとなり、法人税が10%増しになります。

この2012年というタイミングで「航空機リース」を行うと、法人税を払わなくてよくなります。復興特需で上げた利益を失わずにすむし、相続税・贈与税も同時に節税できるのでお得です。

実際に、航空産業と関係ない企業が航空機リースを始め、それによって節税することが多くなったのは、2012年前後から。建設業者や棺業者、原発の汚染水の処理業者など、震災に関わる業者が大半とのことです。

2005年の税制改正までは、法人も個人も利用できる制度でした。税制改正以降、個人での利用はできなくなり、同時に法人について「出資額を上回る損失は計上できない」となりましたが、それまでは計上可能でしたし、現在も出資額の範囲内なら有効で、節税に有利となっています。

こういった取引には、当然ながら融資する金融機関が存在しているものです。欧州の投資銀行が半分近く、日本の企業や金融機関も参加しており、政府全額出資の「日本政策投資銀行」も融資をおこなっています。

ボーイング一機を購入するのに、約13億円が企業の節税、残り約30億円が日本政策投資銀行の融資。そういう事例がありますが、この銀行の場合「産業育成」という命題がありますから、「産業育成のために、航空会社が必要とする資金を融資しました」とできるのです。

この「抜け穴」は、かつては日本だけのものではなく、世界各国に存在していました。しかし、日本以外の先進国は、抜け穴をふさぐ作業をすでに終えています。

アメリカでは2回の税制改正を行い、節税目的での航空機リースができない制度に変更しました。他の先進国もそれにならっていますから、航空機リースで節税できるのは、現在では日本だけになったのです。

昨年の推計で、日本で行われた航空機調達の金額は1兆円。このうち、約8000億円が節税目的の航空機リースに関連した金額です。

日本は世界の航空業界の注目を集めるようになりました。航空業界の国際会議に「これまで海外で行われていたのに、急に東京に会場を変更した」というものが増えています。

海外の航空会社と契約する労力を払って、一機数十億円の航空機にお金を払っても問題ないくらい、航空機リースによる節税は儲かる。消費税や所得税のような身近な税金と違って、関心が集まりにくいのも活用しやすいポイントです。

ただ、あまりにも不自然だということで、各方面から税制を変えるべきだという意見が出ています。

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