ディスパッチャーが計算し提案してくれるものとは

たとえば「成田空港からロサンゼルス空港に行くためのフライトプラン」を作るとすると、ディスパッチャーは、それぞれの空港の天気を調べます。ルート上の上層風の分布図や、悪天候を予想した図面なども必要。

天候など、とくに問題ない場合は、やはり最短距離を飛びたいもの。

成田からロスに行くには複数の運航ルートがあるのですが、距離の長いルートも短いルートも混在していて、同じではありません。

こういう時、もっとも選びたいルートは「大圏ルート」。これは地球上の2点を結ぶ最短ルートのこと。

日常生活でもっともよく使われている世界地図は平面なので、2点の位置や距離によっては、あっちとこっちを直線で結んでも、最短距離にならないことがありますが、大圏ルートはそれをきちんと修正してあるものです。

大圏ルートの他に、さまざまな理由で「成田とロスの間の最短距離ではないのだが、それについで合理的なルート、有利なルート」というのがあり、そういったルートは、すでに航空機のルートとして確立されたものです。

ですから、ディスパッチャーが、いまだかつてなかったような斬新なルートを考え出して、提案してきて・・・ということはありません。これまでに確立された複数の航路のなかで、その日の気象条件や空港の都合などを考え合わせ「最適なもの」を提案します。

たとえば、成田からロスへのルート上には、季節によりますが、ジェット・ストリームと呼ばれる強風が発生していることがあります。ジェット・ストリームとは、北半球の緯度30度~50度の高度1万m前後でみられる偏西風。季節によって風の強さや向きなどが変化し、冬期には時速360kmにもなることがあります。

これが向かい風になると、距離的に短いルートを採用したとしても、強風に逆らいながらのフライトとなり、合理的ではなくなります。飛びにくい上に燃料の消費が早かったり、飛行時間もかかってしまったり・・・。そういう時は、多少距離が長くても、ジェット・ストリームの影響を受けないルートを通ったほうが早く目的地に着くことができます。

ディスパッチャーは、そういった要素を考慮した上で、フライトプランを立案。

しかし、ジェット・ストリームは旅客機に立ちふさがるだけの強風ではありません。

季節によって風の強さや方向が変わりますから、むしろ旅客機の追い風になってくれることがあります。こういった季節のジェット・ストリームは実に時速100kmの追い風、大圏ルートとうまく組み合わせると、成田からロスまでの10時間が9時間半になることもあるそうです。

こうなると、ジャンボ機は1分間にドラム缶約1本(200リットル)の燃料を消費する計算ですから、30分の短縮でドラム缶30本分の燃料の節約となります。

飛行を続けていくうちに旅客機自体の重量が減って燃費がさらによくなるので、実際にはもっと多くの燃料を使わずにすみます。金額にして数十万円を節約できるので、いつも燃料のコストで頭が痛い航空会社にとって、嬉しいメリットとなるのです。

なにしろ、とびきり早い追い風に乗って、気分よく目的地に早く到着できるのですから、乗客も嬉しい。ディスパッチャーは航路の計算ひとつで、良いことづくめのフライトを提案してくれるルート選択の達人なのです。

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