飛行機の最高飛行高度を決める客室高度とは?

10,000mの上空では、外気温度はマイナス50℃、外気圧は地上の20%以下になります。そのため、高々度を飛行する旅客機には必ずエアコンと与圧装置(機内の温度と気圧を快適な状態に維持する装置)がついています。

機内で乗客が快適に過ごせるよう適温の24℃を基準に、夏場は薄着のため少し高め、冬場は逆に低めになるようコントロールしています。

ところが機内の気圧設定は気温ほど単純ではなく、例えば機内を1気圧に保ったまま上昇していくと、外気圧が低くなるので飛行機を風船のように膨らませる力が大きくなっていきます。

飛行高度11,000mでの機内との差圧による力は8.1トン/㎡となり、高度13,000mでは8.7トン/㎡と増えていきます。しかもフライトの度に膨らんだりしぼんだりする力が繰り返し加わるので、強度上の問題が生じてしまいます。

そこで、飛行高度により、力が変化しないよう外気圧の変化に合わせて機内の気圧を変化させる方法で、差圧による力の影響を小さくしています。けれども、機内の気圧を大きく変化させると快適性に問題があるので、どんなに下げても0.75気圧以下、高度にして2,400m以上にしてはならないよう定められています。

この機内の気圧に相当する高度を客室高度を呼び、飛行高度と区別しています。飛行機の最高飛行高度は、客室高度を最大の2,400mとしたときの差圧で決まっています。

◆客室高度のしくみと不快感のないコントロール方法

客室高度をキャビン・アルチチュード(業界では略して「キャビンアルチ」などと呼ぶ)は、飛行機が飛んでいる飛行高度と区別しており、ボーイングB777の与圧では、例えば飛行高度10,000mに対して客室高度を1,400mに保っています。

この客室高度を1,400mに保つ秘密は、減圧弁(アウトフロー・バルブ)と呼ばれる、機体の前後にある2つの小さなバルブにあります。

機内にはエアコンの空気が大量に流入しており、そのままだと風船のように膨らんでしまうため、空気の出口となるバルブの開閉を調節することで機内の与圧をコントロールしているのです。

機内における外気圧との差圧は6.0トン/㎡以上もあるため、たった2つの小さなバルブでもほんの少し開け閉めするだけで、機内の気圧を大きく変化させることができるのです。

バルブを閉める方向に動かせば機内の気圧は高くなり、開ける方向ならば気圧は低くなります。

降下を開始して飛行高度が低くなるに従って、バルブで流出させる空気を調節し機内の気圧を上げていく、つまり客室高度を下げていきます。その速度は日本一速いエレベーターの速度750m/分の20%以下である100m/分から150m/分ほどで、耳に不快感を与えないようにコントロールしています。

ところで、飛行機は膨らむ力に対しては6.0トン/㎡以上に耐えることができますが、へこむ力に対してはその10%以下の強度しかないため、もし機内圧よりも外気圧の方が高くなってしまった場合には、へこむ力が働かないように安全弁が開いて機内圧と外気圧を同じにするしくみになっています。

◆速すぎてもいけない!?飛行機の最大速度

パイロットは空気との力関係を知ることのできる対気速度計で、飛行速度の最小値と最大値を見ています。なぜなら、空気から受ける力が小さすぎると飛行機の重さを支える揚力が得られずに失速してしまうため、この最小速度は飛行高度に関係なく同じ値です。逆に、空気から受ける力が大きすぎると飛行機が壊れてしまう恐れがありますが、この最大速度も飛行高度に関係なく同じ値です。

この飛行機の強度により制限される最大の速度を最大運用限界速度と呼び、VMOという記号で表します。速度計には最大運用限界速度がひと目でわるよう、例えばクラシックジャンボ機の速度計では、床屋さんの看板に似ていることから「バーバーボール」と呼ばれる針が示す速度が最大運用限界速度となります。

また、飛行速度が音速を超えると衝撃波が発生し、空気が翼上面からはく離してしまい、はく離した空気が機体にぶつかってバフェットと呼ばれる大きな機体振動を起こす現象が発生してしまいます。最悪の場合、衝撃波失速(ショックストール)と呼ばれる失速状態に陥る可能性もあります。

たとえ飛行速度が音速を超えていなくても、揚力を得るため翼の上面を流れる空気の速度は飛行速度よりも速いので、音速を超えてしまう場合もあり、注意が必要です。

そこで不安定な操縦を強いられるマッハ数以下で飛行しなければなりませんが、その最大運用限界マッハ数をMMOという記号で表しています。

◆気温によって速度は変化する!?不思議なマッハ数

飛行速度と衝撃波の関係を知る速度計である、「マッハ計」が指示するマッハ数とは、飛行速度と音速との比を意味しており、例えばマッハ数0.83は音速の83%、マッハ数1.0は音速の100%、つまり音速そのものとなります。音速は外気温度が高ければ速くなり、低くなれば遅くなる性質があります。

音速が外気温度により変化するということは、飛行機が飛ぶ高度により変化するということで、例えば高度12,000mでは外気温度はマイナス56.5℃なので音速は時速1,062km、高度10,000mではマイナス50℃で1,078km、高度9,000mではマイナス43.5℃で時速1,094kmとなります。

エアバスA330の最大運用限界マッハ数であるMMOは0.86なので、音速の86%を速度に換算すると、11,000mでは時速913km、10,000mでは時速927kmとなりますが、パイロットは高度ごとにそれらの速度を覚えることはできません。

けれども、マッハ数で表現すればどの高度であってもマッハ0.86を超えると衝撃波が発生する恐れがある速度であることには変わりませんから、重要なのはその高度でのマッハ数を知ることなのです。

そのため、PFD(プライマリー・フライト・ディスプレイ)のマッハ計は高速になると指示するようになっているのです。

◆さまざまな原因による飛行機の揺れ

スムーズなフライトなのに、突然「ポーン」とシートベルトのサインが点灯することがあります。このようなフライト中の飛行機の揺れの原因はさまざまですが、代表的なものが積乱雲。

積乱雲に近づくと雲の中はもちろん周辺でも非常に強い揺れをともなうだけでなく、被雷(雷を受けること)や大粒のヒョウなどが衝突して、飛行機に大きな損害を与える可能性が高いため、パイロットは決して積乱雲には近づかず、大きさがわからない夜間であれば気象レーダーを頼りに迂回します。

また、雲もない晴天なのに揺れる現象もありますが、これをCAT(クリア・エア・タービュランス)、略してキャットと呼んでいます。これは風の方向や速度の急激な変化が原因です。

さらに、山岳波に代表されるような地形による揺れもあります。例えば冬晴れの富士山の周辺では山岳派による非常に強い揺れがあります。房総半島にまでその影響があり、羽田空港へ着陸のために侵入するときに大きく揺れることがあるのです。

このためパイロットは、フライト中の揺れに対して非常に神経を使い、出発前のブリーフィングはもとより、パイロット同士が廊下ですれ違うようなわずかな時間であっても「エンルートはどうだった」と飛行ルート上の揺れの情報交換をするほどです。

さらに、飛行中も無線通信により航空交通管制やほかの飛行機から揺れがある位置や高度、揺れの強さ(ライト、モダレイト、シビアの3段階に分けられます)などの最新情報を入手しているのです。

関連記事

ページ上部へ戻る