旅客機の機内はなぜあんなに乾燥しているの?

じめじめした気候に慣れているアジア人にしてみると、旅客機内は砂漠のように乾燥していると感じられます。高い湿度も不快なものですが、乾燥しすぎというのも健康上よくないものです。ちなみに、巡航高度における機内の温度は25度C、湿度は20%くらいが目安とされています。

実際には測ってみるともっと乾燥している場合が多く、湿度が1ケタ台のときも・・・。乾燥が苦手な人には気になる話です。

では、なぜ機内はそんなに乾燥しているのでしょうか。これには、機内の空調が関係しています。

機内を一定の適温に保つためには、エンジンがつくる高温の圧縮空気を膨張させて冷やし、ダクトを通して客室に送りこんでいますが、高温高圧の空気が急激に冷やされる際、空気中に溶けこんでいた水分が飽和状態になって現われます。これをそのまま機内に送りこむと、ダクトに水滴がつき、結露やさびを起こして、故障の原因となります。

そこで、水分を除去するための装置を通してから、機内に空気を送りこんでいるのです。

水分除去装置では、遠心力を利用して空気中の水分を飛ばしています。こうしたしくみのために、機内はいつも乾燥状態。これが原因で肌がカサついたり、目が乾くなどの不快感をもたらすことがありますが、もっと深刻な事態を招くことがあります。旅客機の乾燥した空気が「エコノミークラス症候群」の一因と考えられているのです。

エコノミークラス症候群は、正式には「肺静脈血栓塞栓症」といいます。長時間のフライトで座ったままの姿勢を続けているうちに、膝の裏側の静脈の血行が悪くなり、血栓(血の塊)ができて、これが体内の血管を移動して肺の血管に到達して詰まり、呼吸困難を起こすという病気です。

「エコノミークラス」と俗に呼ばれてはいますが、じっと座り続けることが原因なので、ビジネスクラスでもファーストクラスでも起こりえます。長時間座り続けなけれならないタクシー運転手に発症した事例があります。

機内で起こりやすいのは、機内が乾燥していることと、体をのびのびと動かしにくいことが原因となっています。

機内は乾燥しているため、じっとしていても1時間に80mlくらいの水分が体内から失われています。
12時間のフライトなら約1ℓもの水分が失われる計算です。体内の水分が減ると、血液中の水分も失われるので、血液に粘り気が出て、固まりやすくなるのです。

軽症の場合は、足がむくむ程度ですむが、片脚の膝の裏側が腫れて痛みを感じるようなら「危険信号」です。

症状はフライト中とは限らず、旅客機を降りたあと急に具合が悪くなったりと空港で起こることもあります。また、フライト中や直後に自覚症状がなかったのに、1週間後に症状が現われたケースも。

そういわれると「飛行機は怖い」となってしまいそうですが、そうならないための予防策はたくさんあるので、それをしてれば問題ありません。

①2~3時間に1回は、少し離れたトイレまで歩く。

②座席に座ったきりではなく、時々はシートべルトをゆるめ、足をのばしたり、こまめに動かしたりしてみる。

③水分を適度にとる。「1時間ごとにコップ半分くらいの水やジュース」が目安です。

④アルコール飲料やコーヒーは利尿作用があるため、飲みすぎ注意。乗り物酔い防止にと機内でお酒を飲む人がいますが、効果はあまり期待できません。乗り物酔い対策は別の方法にしたほうがいいようです。

⑤ウエストなどを締めつける服装は避け、ゆったりとした服装にする。

⑥不自然な姿勢のまま寝こんでしまうおそれがあるので、睡眠薬の服用は避ける。

他の薬でも、旅客機内で使う予定があるときは、使っていいかどうか、念のため購入先で確認しておくといいでしょう。

このほか、心臓病や血栓性疾患の既往症がある人、生活習慣病のある人、中高年の女性、妊娠中の人はリスクが高いといわれていますから、旅の予定ができたら、何を気をつけたらいいか、あらかじめ病院などで聞いておくと、安心かもしれません。

快適な空の旅のためにも、これらの予防策を心がけること、体調がヘンかなと思ったら、迷わず客室乗務員に声をかけて、相談してください。客室乗務員はそういう時にどうするかの知識もちゃんとありますから、なんの心配もありません。

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