なぜ羽田空港から昼間の米国便が飛ばないのか

羽田空港は日本の首都に所在する国際空港。交通機関のアクセスもよく、海外からの観光客が多く訪れる空港として羽田空港では2014年春から国際線が大幅に増便されました。

これまでは使い勝手のいい午前7時から午後10時までの昼間の時間帯の発着は、中国や台湾、韓国といった近距離アジア路線に限られていたのですが、2014年春からロンドンやパリ、バンコク、シンガポールなどの中長距離路線が加わり、新たにミュンヘンやバンクーバー、ジャカルタ、ハノイなどへの直行便も飛ぶようになったのです。

しかし、この昼間の時間帯にビジネス、観光ともに最も往来が活発であるアメリカへの便はありません。羽田空港の米国線は、すべて深夜早朝帯の発着となっているのです。

アメリカ合衆国大手の航空会社ユナイテッド航空は2014年10月28日から、初めての路線となる羽田空港とサンフランシスコを結ぶ路線を就航させましたが、約9時間10分の飛行時間を要する同路線の運航スケジュールは羽田発が0時05分でサンフランシスコ着が現地時間の17時15分。

約11時間30分の飛行時間を要する帰りは現地発が18時35分で羽田到着が22時05分と、行き帰りとも、羽田空港への発着は午後10時から午前7時までの深夜早朝時間帯。

いくら羽田空港が都心から近いといっても、深夜早朝では公共交通機関の便が悪く、使い勝手が悪い状態としか言いようがありません。

羽田空港と成田空港の米国線の就航状況を比べてみると、深夜早朝帯ばかりに米国線が集中する羽田空港は週49便しか飛んでいないのに対して、昼間の時間帯、深夜早朝帯も便がある成田国際空港からは週約350便の米国便が飛んでいます。

米国線の需要がないのではなく、需要はあるものの羽田空港の昼間の時間帯に米国線の枠がないため、利用客が成田空港に集中してしまうのです。

この羽田空港の使い勝手の悪さには、アメリカン航空のエルワン・ペリラン太平洋地区副社長も「羽田の深夜早朝便は米国に行く際、特に東海岸行きは深夜に日本を発ち、深夜に米国に着くスケジュールとなってしまい、使い勝手が悪い」と意見を述べています。

アメリカン航空も2011年にニューヨークと羽田空港を結ぶ路線を羽田空港の深夜早朝時間帯に就航しましたが、やはり利用客が振るわず、わずか2年で撤退するという苦い経験を持っています。

米国線が羽田空港に昼間の時間帯に就航できない現状は、どの航空会社でも苦労していることのよう。

何故羽田空港の昼間の時間帯に米国線が就航できないのか、羽田空港の発着便が多くて昼間の時間帯に米国線が割り込めないからでしょうか。

しかし実際はそうではありません。羽田国際線の昼間の時間帯の年間発着枠は近年、従来の3万回増の9万回まで引き上げられたため、事実上1日当たり40便の増便ができる計算。

ですから実際には1日当たりの定期便は31便と下回り、残る9便分はチャーター向けに暫定的に開放されているため、発着便が多くて米国線が割り込めないということはありません。

需要の高い羽田空港と米国を結ぶ路線の昼間の時間帯の就航が実現のものとならない理由は、日米政府間の調整が難航しているから。

国際線というものは行き来する2つの国が、相互に乗り入れを認め合う必要があります。

発着する空港と便数の決め方は、原則として何便でも自由に飛ばせることを2国間で包括的に合意する「オープンスカイ」方式によって決められます。しかし羽田空港のように混雑する空港で人気の高い昼間の時間帯については枠が限られているため、昼間の時間帯に何便を飛ばすかは、2つの国同士が合意しないと決めることができません。

つまり、国際線の就航には、事前に2つの国同士が自分たちの利便を譲歩しあう、航空交渉をしなくてはならないわけです。

羽田国際線の発着枠拡大が決まった2010年には、国土交通省が乗り入れ各国との航空交渉を開始し、10カ国31便の就航が決まったのですが、アメリカ合衆国に対しては、航空交渉を最優先したものの、結局1日9便の範囲で合意をする方向で調整が難航したといいます。

この問題では、米国の航空業界関係者から「課題は米国側にある」との指摘が上がっています。米国から日本に乗り入れている航空会社はデルタ、ユナイテッド、アメリカン、ハワイアン航空の4社ですが、それぞれの思惑が交錯し、それを米国当局がまとめ切れていないというのです。

大手デルタ航空は羽田の昼間の時間帯の発着枠を大幅に拡大して、1社で20枠以上の獲得を要望したと言われています。しかしこれは今回の米国線への割り当ての上限9枠を1社で大幅に上回っており、この現実的に不可能な要望が調整を難航させている要因の一つであることは言うまでもないでしょう。

ただ、デルタの主張にはある思惑があります。デルタ航空は成田空港に1日25枠という大きな発着枠を持ち、約800人の従業員やホテル、機内食工場などを抱えている大手航空会社。

加えてデルタ航空は日米間だけでなく、中国やフィリピン、タイなど、日本以外の国にも飛べる「以遠権」を持っているのです。

この権益は世界大戦後に日本の航空業界の活動が規制され、日本に航空会社が存在しえなかった時代に、羽田を拠点として国際線を飛ばしていた旧ノースウェスト航空から承継したものです。

他にも、デルタほどではありませんがユナイテッド航空も同じ理由で日本で以遠権を持ち、両社が成田を中継地として、アジアと米国を行き来する需要を押さえています。

日本政府は1978年に成田空港を国際線の拠点にしていく方向を定め、デルタ航空と合併した旧ノースウエスト航空は日本政府の意向にそって従業員などの経営資源を羽田から成田に移した経緯があることから、デルタ航空にとっては日本政府に貸しがある状態となっています。

ですから、羽田の国際化が進むことはデルタにとって面白い話ではないのでしょう。羽田空港から米国への昼間便が飛べば、その使い勝手の良さから羽田空港への利用客が成田空港から流れてしまい、自分たちの拠点となっている成田空港のネットワークに少なからず影響が出ることが予想されているからです。

加えて、ユナイテッド航空にとっては、全日本空輸(ANA)が加盟するスターアライアンス、アメリカンは日本航空(JAL)が入るワンワールドという国際アライアンスを組んでいます。

羽田空港で昼間の時間帯での就航が可能になれば、運航やマイレージなどで連携できるというメリットがありますが、デルタ航空が属するスカイチームには、日本の航空会社が入っていないので、ユナイテッド航空に利用客が流れてしまうという不安も否めません。

羽田空港で以遠権を使えないデルタ航空にとっては、現在の9枠を前提に発着枠の配分が決まってしまうと、米国から羽田の先に自社ネットワークをつなげられず、打撃を被ってしまう。

だから羽田空港の昼間の時間帯の米国便の就航はなんとしても認められない、という思惑があるため、あえて航空交渉を難航化させる無理な要望を出しているとみるのが、本当のところなのでしょう。

しかしながら、日米首脳会談で米国のオバマ大統領が政府専用機「エアフォースワン」で昼間の時間帯の羽田空港に降り立ったように、昼間の時間帯の羽田空港の使い勝手の良さ、予想される需要の高さは、米国政府も認めていることは確か。

観光客の大半も昼間の時間帯の羽田空港の米国線の就航を望んでおり、問題の解決はなによりも優先されるべきなのですが、関係者の思惑や利害が複雑に絡み合う中、日米航空交渉という暗闇のトンネルは長く続き、なかなか出口は見えてきそうにありません。

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