「太陽からの風」は、危険か?安全か?イメージ先行報道に警戒を・・・

目で見ることはできませんが、地球にはさまざまな宇宙線か届いています。

国立科学博物館(東京都台東区)などで、「霧箱」という名前の、中が黒いガラスケースのような箱が展示されていることがあります。これは、宇宙から地上に届く宇宙線を目で確認できるよう、特別なしかけをしてある箱です。

今まさに地上に届き続けている宇宙線を見ることができるのです。

黒い内部に、断続的に細く白い雲のようなものが次々と現れる、非常に美しいものです。こういった宇宙線の一種に「太陽風」と呼ばれるものがあります。太陽の黒点から出ている放射線であるため、その名前がつけられています。

太陽からの風を意味するこの単語は、古典SFにたびたび取り上げられ、長く日本のSFファン達に愛されてきました。

日本語ならではの響きのよい単語です。

英語ではもちろん、solar wind。

こちらの単語も、さらりと心地よい響きなので、日本の作詞家や歌手に好まれ、楽曲の歌詞やタイトルに何度も採用されてきました。

この太陽風の発生源である太陽は、一定の強さでずっと燃え続けているわけではなく、強く燃えている時期、弱く燃えている時期と、多少の変化をします。およそ11年周期で、この燃え方が活発になると言われていますが、時々、太陽の表面で激しい爆発がおきることがあります。

火を燃やすと、炎の形や光の強さがさまざまに変化し、炎の一部分が時々はじけたりしますが、それと似たようなものです。

太陽の黒点で激しい爆発が起きると、強い磁場と高密度のプラズマを伴った猛烈な風が吹き出します。風に含まれているのは紫外線や赤外線を含んだ電磁波、粒子線など。これが地球に降り注ぎ、電気機器や人工衛星などに影響を与えることもあります。

このとき降り注ぐもの全体のことをさして「太陽風」と名づけているのですが、印象の強い単語であるためか、この単語を利用した、不安をあおる報道がされることがあります。

2013年5月中旬には、地球側に向いていない表面にあった黒点で、通常の100倍以上のXクラスと呼ばれる爆発が起こり、太陽風より強い「太陽嵐」が吹き上げました。太陽嵐が起きるほど爆発が強いので、地球になんらかの被害が及ぶのではないかと報道されましたが、地球からは見えない側の表面に吹き上げたためか、特に問題はありませんでした。

また、最近ではSpace Weatherという雑誌が、「米政府機関の予算の関係で、放射線を監視するシステムが止まっていた時期があった」と報道しました。ちょうどその期間に太陽嵐が発生しているので、50万人が太陽嵐による強い放射線を浴びたはずだというのです。

指摘されたシステムは、NASAが出資する大気電離放射線システムのNowcast(NAIRAS)。リアルタイムで航空放射線環境のデータを提供しているコンピュータシステムです。世界中の空を飛び交っている自然放射線の監視は、NAIRASのようなコンピュータによって行われ、フライトに影響することが予想される場合、航空機に警告を発することができるようになっています。

放射線レベルが増加しているときは、パイロットは高度を下げることによって危険を回避できますし、影響を受けない地域を通って飛行することもできます。それが一時期、止まっていたという報道でしたから、太陽嵐の影響を受けた人がガンになるのではないかと不安視されました。

「太陽風」は、常に地球に向かって吹いていますが、太陽風に含まれる粒子は高度100~400km付近で大気によって遮られ、地上に到達することはありません。しかし、これが「太陽嵐」の場合、激しく吹き上げた粒子の勢いが非常に強いため、大気を突き抜け、高度10kmくらいまで降りてくることがあります。大気圏全体で見ると、旅客機の航行高度に近い高さです。

ですから、航空機の近くに太陽嵐の粒子が届くことで、乗客が放射線被ばくするのではないかと心配されたのです。

THE CONVERSATIONによれば、システムが止まっていた間、静止衛星によって観測された地磁気の活動レベルはわずかで、太陽嵐による重大な影響はないとされています。

そのため、この報道が行き過ぎではないかと議論が持ち上がりました。

そもそも、放射線の一種といっても、太陽嵐とガンとは関連性がないのだそうです。

それに、太陽嵐が発生している間に乗客がさらされた放射線レベルは、日常よりは高いレベルですが、病院で撮影に使うレントゲン程度のレベルで、ごく低いものでした。

放射線と聞いただけで怖ろしいもののように感じられますが、実は目に見えないだけで、自然界をいつも飛び交っています。霧箱で見られるように、もともと自然界にあるものなので、特殊な場合を除いて身体に影響しないものなのです。

しかし「放射線の被曝イコール病気」というイメージは、非常に強いものです。

特に妊娠中の女性や、お子さんのいるお母さんたちにとっては、放射線と聞いただけで抵抗を感じる人が多いものです。

放射線には、安全なものと危険なものと、2種類があります。

放射線や宇宙線という言葉のイメージだけを先行させ、女性たちの不安をあおったり、あたかも怖ろしい事件が起こったかのように思わせる報道には気をつけたいものです。

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