燃料高騰における航空会社の苦肉の策とは?

2004年10月、イラク戦争や中東情勢の悪化から、原油価格が世界的に高騰しました。

この高騰の影響は、燃料なしにはフライトもなにもできない航空会社を直撃することになり、航空料金の値上げにつながったりしました。

そういう時期に、日本のある航空会社では、貨物機(力ーゴ)のうちの2機にかぎり「塗装を主翼と尾翼のみにし、胴体塗装をしない」というアイデアを出しました。

これは貨物機の場合、胴体・主翼・尾翼の全部を合わせた1機の塗装の重さが、全部で約200kgあるからです。胴体の塗装をやめると、1機につき約150kg軽くすることができ、主翼と尾翼だけにすれば、塗装の重量は約50kgですみます。

これで塗料の重さが4分の1になるというわけ、塗料分の重量を抑え、機体を軽くすることで、燃費をよくしようという「苦肉の策」だったのです。

燃費優先のときに、合理性だけを考えれば、旅客機の塗装はいらないといえるかもしれませんが、通常、塗装の役割は軽視できません。

旅客機の塗装というと、航空会社のロゴやデザイン、さまざまなキャラクターの絵柄、スポーツ選手の応援キャンペーンなど多くの「PR」が思い浮かびますが、なにより塗装には「機体の表面を保護する」という大切な役割があるのです。

上空を高速で飛行しつづける旅客機の機体表面は、空の塵や雨、ひょうなどがぶつかってきたり、地上よりもはるかに強い紫外線にもさらされます。山登りすると日焼けしやすいといわれますが、紫外線は標高が上がるにつれ、強くなるのです。上空ではさらに強くなります。

こうした自然条件による機体の劣化はまぬがれることができませんが、塗装があることで、そうしたダメージを減らすことができるのです。人間が日焼け止めを塗るのと同じようなものです。

塗装は月日が経てば劣化するので、4~5年で新しく塗り替えられます。これも日焼け止めがだんだん落ちてしまうのと同じです。

古くなった塗装を塗り替える手順は「塗装→剥離→水洗い→外板の腐食処理→水洗い→乾燥→下塗り→中塗り→マスキング作業→塗装→乾燥」となります。機種によりますが、ジャンボ機の場合、最初の「塗装剥離」だけで20日間ほどかかります。

また、外板のアルミ合金には塗料が乗りにくいため、プライマーと呼ばれる下地を塗ってから、表面に光沢のある塗料(トップコート)を塗ることになります。

使用する塗料の量は、ジャンボ機(ボーイング747)で約600L。これはドラム缶3本分に相当します。それだけ聞くと大変な量だと思ってしまいますが、これを約0.1mmの厚みで、機体全体に均一に塗っていくのです。

塗る前の塗料の重さは500kgくらいですが、塗り終えてから乾かすのですから、塗料のなかの揮発成分が揮発し、外板に付着して残る分は200kgくらいだそうです。

旅客機の美しい色彩や優れたデザインによる外観は、塗装の塗り替えに必要ないくつもの作業工程を経て、つくりあげられたものなのです。

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