日本人整備士のレベルの高さは几帳面さと愛情が支えている

日本の空の交通に関わることは「航空法」によって定められています。航空法の第一条には、その目的として

・航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定める
・航空事業の適正かつ合理的な運営を確保し、安全確保とともに利用者の利便の増進を図る
・以上のことにより航空の発達を図って公共の福祉を増進する

と定められています。

1994年に行われた航空法の改正では、「ヘビーメンテナンスビジット=重整備」に関する規制が緩和され、国内航空会社はそれまでは許されていなかった海外委託ができるようになりました。そこで各航空会社はコスト削減のために中国・シンガポール・タイといった国の整備会社への委託を増やしていきました。

ところが、JALなどは度重なる整備不良トラブルが発生し信用が失墜。経営破綻の遠因ともなりました。ANAはそこまで行かなくてもやはり幾度かの整備不良の問題を起こして、国土交通省から厳重注意を受けたこともあります。そのためANAでは、整備の「内注化」つまり、自社やグループ会社の整備士による整備の割合を増やす方針にシフトしています。

現在、ANAにはグループ会社全体を含めて約4,700名ほどの整備士が所属しています。

現場作業では安全のためのヘルメット着用が義務付けられていますが、ANAの整備士のヘルメットは、入社2年未満の新人は黄色、2年を超えると白に紺のライン、チーフになると白に緑のライン、管理職までなると白に黒のラインと、勤務年数や役職の違いがはっきりわかるように色分けされています。

また、ヘルメットにはそれに加えて保有資格や整備できる飛行機の種類なども記されています。ANAでは数種類の社内資格があって、資格に応じて整備できる機種の数が変わってきます。4,700人もいると、そのようにして一目で様々な情報がわかるようにしておく必要があるのでしょう。

このように、ある意味階級分けのようなことがあると、良くも悪くも上下関係を重んじる日本では窮屈な職場になりがちです。しかし、ANAでは2013年に、上下の別なく職務のために言うべきことはきちんと言うという「アサーション」という取り組みを行っているので、上下の風通しがよくなっています。

ANAの整備士はまず作業内容別の社内資格をとりながら経験を積んで、その後国土交通省が認定する「航空整備士」という国家資格を取得するというのが一般的な流れのようです。

整備士が整備を行うには、当然様々な工具を使います。工具は会社からの貸与で、一人が使う工具の種類は30種類前後。しかし、飛行機の整備を行う格納庫にはなんと一万以上の工具が用意されているそうです。

整備士にとって、整備の仕事自体とともに重要なのが、その日使った工具がきちんと揃っていることを確認すること。これは、うっかりどこかに置き忘れたりした工具が原因となって重大な事故が起きたりしないようにするため。

そのため、工具には整備士それぞれの氏名と社員番号が記され、厳密に管理されています。仮に小さなレンチ一本でもなくなっていたら、その場の整備士全員で探さなくてはなりません。

ゆえに、そういうことが起こらないようにそれぞれの使う工具箱は整備士それぞれが工夫をして整理され、何がどこにあるかすぐにわかるようになっています。

そして、一日の仕事が終了し、工具がきちんと揃っていることが確認された後の工具箱には鍵がかけられ、格納庫内にある工具室に収められます。

思うに、ここまで厳密に工具の管理を行っているのは日本の会社ならではのこと。

例えば野球のイチロー選手も、アメリカで道具を大切に扱うことで感心されたということですが、そうした日本人の道具を大切にし、きちんと管理するという几帳面な民族性が、整備の面でもレベルを高めることにつながっているのかもしれません。

また、ANAには膨大な整備マニュアルがあって、整備士たちはそのマニュアルに従って作業をします。

マニュアルに則った行動をするのは日本人が最も得意とするところ、しかし国によってはマニュアルがあっても基本守ろうとしないところも・・・。マニュアル通りというのは、場合によっては融通が効かないという弊害を伴うことがありますが、飛行機の整備の場合はマニュアルをきちんと守ることが重要。

ANAの整備士には飛行機自体や、飛行機以外の乗り物が好きという人が多いそう。

格納庫で自分が整備した飛行機が再び飛ぶために出発するときには心の中で手を振って見送るそうです。工具を管理しマニュアルを守るという几帳面さ以外に、こうした飛行機への愛情も日本人整備士のレベルの高さを支えているのかもしれません。

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