実は首都圏の空港も「ガラパゴス化」していたという事実

「D滑走路」の完成・運用開始により「再国際空港化」された羽田空港。24時間営業となり深夜や早朝にも旅客機が飛んでいます。とはいえ、肝心の空港へのアクセスが限られているため、その24時間営業も完全には生かされていないのが現状。

とあるビジネスマンを例にとれば、その方は何度か朝7時20分羽田発台北行きのチャイナエアラインを利用しているのですが、2時間前の朝5時20分までにチェックインするためには公共の交通機関では間に合わないので、前日に蒲田のホテルに泊まり、そこから空港までの送迎バスでギリギリ間に合わせたということもあります。

現在チャイナエアラインはネットで事前チェックインができるため、フライト1時間前の6時20分までに行けばよくなったとはいうものの、その方が住む横浜から羽田空港へ行く一番早い電車は京急線の横浜発5時23分の急行なので、かなりギリギリです。

行く側だけではなく到着した側の人はもっと困るはず。早朝ならまだ電車やモノレールが走り出すまで待てなくはないと思いますが、深夜に到着した人はどうにもなりません。羽田空港は24時間営業なので、空港で夜を過ごすという方法もありますが、そこまでしたくないという人も多いことでしょう。

だからといって、空港周囲にはネットカフェや終夜営業のファストフード店なども存在しません。日本人というのは本当に「全体を見た運用」というのが下手なんだなと思います。

そんなわけで、羽田空港の深夜便・早朝便はその不便さのために利用者が少なく、羽田発ニューヨーク行きを運用していたアメリカン空港は2013年に撤退するという始末。

そうした状況が4年間も放置されてきた2014年、国土交通省はやっと都心と羽田空港を結ぶ深夜便・早朝便のバスの運用実験を始めることにしました。国交省はwebサイトで「羽田空港の深夜早朝におけるアクセスが便利になります!」などと言っているようですが4年も放置しておいては今更といった感じ。

ともあれ、やっとこうした取り組みが始まったのが2014年の10月26日。設定されるのは5路線です。

・羽田空港 ⇔ 銀座・東京・秋葉原
・羽田空港 ⇔ 新宿・池袋
・羽田空港 ⇔ 渋谷
・羽田空港 ⇔ 大鳥居・蒲田・品川
・羽田空港 ⇔ 横浜(YCAT)

それぞれと羽田空港が結ばれます。

運行時間は羽田発が午前1時台、羽田着が午前4時台。これなら、都心まで行けばどこか入れる店はあるし、朝5時のチェックインにも間に合います。運賃は例えば羽田空港 ⇔ 銀座・東京・秋葉原路線だと片道で1860円とちょっと割高です。

国交省が便利になりますと言い張るこの実験。実は期限が2015年3月いっぱいまで。しかも1日1往復のみ。実験ということには利用者が少なければ実際の運用がされない可能性もあるわけです。

国交省が今ごろあわててこんな実験を始める理由はもちろん2020年の東京オリンピック。政府はオリンピック開催までに訪日海外客を年間2000万人にまで増やすとしているので、それに合わせて行っているわけです。完全なるお役所仕事です。

国交省はこの実験とは別に、2014年11月から羽田空港の国際線において新規に就航する路線、或いは増便する路線には「着陸料半額セール」を行って誘致することにしていますが、そもそもアメリカン航空もアクセスの悪さから利用者が減ったために撤退したわけですから、そこを改善せずに誘致しても同じことを繰り返すだけだと思います。

本当に「現実を見た対応」というのが下手なんだと思います。

とりあえず訪日客を増やさないといけないということで羽田空港の発着枠はオリンピックに合わせて増やされるという方向性にあります。しかし、ここで大きな問題があります。それは国交省が強制する「成田縛り」という有り得ないルール。

羽田空港の再国際空港化にあたり、国交省は成田から国際線路線を飛ばしている航空会社が、羽田から同じ目的地への路線を作る場合、もとの成田からの便を残さなければいけないというルールを決めました。つまり、例えば成田-台北の路線を持っている会社が羽田-台北の路線を作る場合、元の成田-台北も残して運用しなければならないということです。

常識的に考えれば、同じ都市に行く路線が成田発より羽田発のほうが多ければ羽田発に絞ってさらに増便すれば経営的に効率的です。羽田が再国際化されようという時に千葉県の森田知事が成田について騒いでいましたが、首都圏の利用客にとって行くだけで手間な成田がどうなろうと知ったことではありません。

しかし、国交省が千葉県の顔色をうかがうようなこんな有り得ないルールを設定しているために、各航空会社は路線を羽田に集約することができないでいます。

こういう縛りは経営的に不合理だという声も上がってはいるものの、航空会社への認可を出す国交省へ表だった批判をする会社は少ないようです。

こうした「ガラパゴスルール」は海外の航空会社からも批判されています。

例えばイギリスのブリティッスエアウェイズ極東地区社長ジョンティ・ブルナー氏は、こんなルールは日本にしかないとして、こんなルールで本当に2020年までに訪日客を2000万人までに増やしたいのかと疑問を呈します。

また、デルタ航空のCEOリチャード・アンダーソン氏は、2013年に来日したおりに、羽田の発着枠を25枠要求し、羽田に路線を集中したいと言う考えを示しています。

成田の利用により躍進が著しいLCCの中には、利便性が高い羽田より安い運賃を設定できる成田を使ったほうが強みがあると主張する会社もあります。シンガポールのLCC「スクート」CEOキャンベル・ウィルソン氏は、羽田には行きにくい北関東の顧客を発掘することで成田にメリットが生まれると語っています。

とはいえ、現在は成田を拠点にしているLCCも、将来的に羽田に進出したいということになった場合でも国交省の有り得ないルールに縛られてしまうわけです。今のところ首都圏でLCC専用ターミナルがあるのは成田だけで、そこに成田の活路があるわけですが、LCCへの需要がさらに増えた場合羽田もそれに対応するという可能性がないわけではありません。

とにもかくにも、国のお役人様がいつまでもお役人様気分で仕事をしているうちは、不合理さが解消されることはないでしょう。

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