旅客機の大量の燃料はどこに積んでいる?

ジェット旅客機の燃料の重さは大型機の場合、総重量の約40%です。たとえば、ジャンボ機(ボーイング747-400)の最大離陸重量は約400tですが、このうち約170tが燃料です。

これほど重量のある燃料を、機体のどこに積んでいるのでしょうか。

答えは主翼の内部。主翼の内部にそんなスぺースがあるのかと疑問に思われるかもしれませんが、主翼の前桁、後桁、リブ(小骨)で囲まれた空間は意外と大きいのです。 主翼をそのままタンクにすれば、翼内の容積を効率よく利用することができるというわけです。

また、そんなに重い燃料を入れて、主翼は大丈夫か、曲がったりしないのかと心配になりますが、むしろ主翼に重量のあるものを積むと、なにかと好都合なのです。飛行中の翼は揚力を得て上向きにしなっています。このしなりが大きくなると、主翼のつけ根に大きな負担がかかりますが、燃料を「重し」にすることで、しなりを小さくし、主翼のつけ根の負担を軽減できます。

ところで、整備士が燃料タンクを整備するときは、もちろんこの主翼の内部に入るわけですが、出入りのときは、主翼の下側に「マンホール」という穴があり、ここから出入りするのです。道路の上からふたをしてあるのがマンホールですが、主翼の下にあいている穴も、同じくマンホールという名前です。

ジャンボ機(ボーイング747-400)は燃料を最大23万L搭載できます。これは200L容量のドラム缶1000本以上に相当します。

家庭の日常生活で見かけるような量ではありませんから、聞くと驚きますが、では、この燃料はずばり何でしょう。一般家庭でも、わりと身近な燃料です。家庭で身近な燃料といえば、まず思いつくのは「ガソリン」でしょう。たしかに、セスナ機のような小型飛行機の燃料は、自動車と同じガソリンを使っています。

しかし、ジェット旅客機の燃料はガソリンではありません。

実は、皆さんが家庭で使う石油ストーブやヒーターの燃料と同じ「灯油」なのです。

もっとも、家庭で使う灯油と全く同じではありません。

家庭用の灯油をそのまま旅客機に搭載したら、気温マィナス50度にもなる1万m上空では、凍って使えなくなってしまいます。これは、家庭で使う灯油には、水分が多く含まれているからです。

灯油に水分なんて入っているの?と思われそうですが、実は少し入っていて、その水分量が旅客機で使うには多すぎるのです。

家庭用の灯油よりも純度が高くて水分が少ない「ケロシン」と呼ばれる特製の灯油があります。旅客機の燃料にはこれを使います。また、ケロシンは、低温で燃えにくいという便利な特徴があります。40度C以上の高温にならなければ引火しません。

このため、自然発火の危険が低いほか、事故の際などの火災を最小限に抑えられるなど、安全性の高い燃料なのです。

飛行機映画の爆発シーンを見ると、旅客機用の燃料は危険なものというイメージを持ってしまいますが、実はそんなことはありません。

知人から「国際線の旅客機に乗ったとき、離陸してまもなく『機体トラブル発生のため、燃料を投棄して引き返します』とアナウンスが流れ、機内が騷然となった」という話を聞かされました。

実は、旅客機が燃料を投棄するのは珍しいことではありません。

ですが、そこまで知らない私たち乗客は「機体トラブル発生」と聞くと「映画みたいに、機体が爆発するから燃料を捨てるのかも」とか考えてしまいます。ですが、機体が爆発とか墜落しそうとか、映画のような状況は、現実のフライトではまず起こりません。

燃料を投棄しなければならないのは、なにかの理由で「予定より早く」着陸することが必要になったときです。

旅客機には安全のため、「これくらい燃料がないと離陸できません」という燃料の量が決められています。逆に「これくらい燃料がないと離陸できません」という量も定められています。

ジャンボ機(ボーイング747)なら、最大離陸重量は約400tで、最大着陸重量は約280t。これを超えた重さで離着陸することはできないのです。着陸重量のほうが120t軽いのは、降下時や着陸時に着陸装置や主翼のつけ根に相当な荷重がかかり、機体破損の恐れがあるためです。

こういったバランスや安全性のことを考えて、離陸時の燃料を最も重く、それを使いきって軽くなったころに着陸できるよう、あらかじめ計算された燃料が積んであるのです。

したがって、通常のなにごともないフライトであれば、あらかじめ計算されたとおりに燃料を使いきって目的地に着陸となります。燃料の重みが着陸重量の妨げとなることもありません。

しかし、何かの理由で予定よりずっと早く着陸することになった場合、「着陸するには燃料が多すぎ」になります。

なにかの方法で燃料を使い切るか、軽くしないといけないのです。

もっとも簡単なのは「燃料が減るまで飛び続ける」という方法ですが、着陸できるほど燃料を消費するには、それだけたくさんの距離を飛ぶことになりますから、どうしても時間がかかります。ですから、時間的余裕がなくて、長い距離を飛んでいられないときは、最大着陸重量以下になるよう、機体の外へと燃料を捨ててしまうことにしているのです。

投棄の方法はいたって簡単、タンクのバルブを開いて燃料を空中に放出。要するに空に燃料をぱらまくだけです。旅客機にはこのための「燃料放出装置」が備わっていますし、ちっとも難しい作業ではありません。

特別製とはいえ、旅客機の燃料である「灯油」を空にばらまくなんて、とんでもない。まかれた燃料で地上がベタベタになると思ってしまいますが、そのあたりは実によくできていて、全く心配ありません。

旅客機に使われる燃料はとても揮発性が高いので、空中に放出されるとまもなく霧状に拡散して、蒸発してしまうのです。なお、小型機の場合は離陸最大重量と着陸最大重量が同じなので、旅客機と違って燃料投棄の必要はなく、燃料放出装置も付いていません。

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