旅客機の失速は即墜落に繋がる危険な状況!?

旅客機が失速すると、即「墜落」するだろうと考えている人がいるようですが、旅客機はそれほど簡単に落ちるものではありません。ただし、悪条件がそろっていると、墜落への道をたどることになります。

まず、失速はどうして起こるのでしょうか。旅客機が前進(飛行)している場合、前方からくる風(空気)は主翼にぶつかると、その上と下に分かれて後方に流れていきます。こうして翼面を流れる空気には「粘り気」(粘性)があり、気流に対する翼の角度(迎え角)が適正に保たれていれば、空気は翼面上にピッタリ沿うようにして流れているのです。

ところが、主翼の迎え角が大きくなる(主翼の前が上がり、後ろが下がった状態)と、翼の上側を流れる空気が乱れ、後方で渦を巻くようになります。この空気の渦は、主翼を後ろから引っ張るような力(抗力)を起こし、旅客機の速度は急に衰えるのです。同時に、主翼上側の空気の乱れは、揚力(機体を上に持ち上げる力)をも失わせ、機体の重力が揚力にまさって、落ちていくことになります。

では、この「失速→墜落」の流れを食い止めるには、どうしたらいいのか。方法は意外と簡単です。機首を下げ、機体を前傾姿勢にして迎え角を小さくし、気流に対する主翼の角度を適正に戻せばいいのです。機体が降下している途中で機首を下向きにすれば、地面に向かって突っこむようなものではないか、と思われるかもしれありません。しかし、それでいいのです。

「地面に向かって飛ぶ」ということは、言い換えると、地面のほうから風が吹いてきている状態。その風の吹いてくる方向に向かって飛ぶことで、揚力が回復し、失速からまぬがれることができるのです。そのうえで、エンジン出力を増し、機体を加速させれば、危険な状態からは直ちに脱することができます。

ただし、こうした方法が有効なのは、ある程度の高度を飛行しているときにかぎられます。失速が離陸や着陸の最中に起きれば、事態は深刻です。低空時に機首を下げると、ほんとうに地面に突っこむことになりかねません。離着陸時の失速→墜落が多いのはこのためです。

また、失速は翼全体で同時に起こるのではなく、最初は一部で発生し、それがだんだん全体に広がっていくという経過をたどります。だから、パイロットがいち早く失速の兆候に気づき対処すれば、大事にいたらずにすむのです。最近の旅客機では、機体が失速を感知したら、警報が鳴る装置も備えられているのが普通です。乗客が「失速」を過剰に恐れる必要はないといえるでしょう。

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