コクピットにいる大切な「虫」とは何

車にしろ、電車にしろ、設定された速度を守ることは、安全運転(運航)の基本中の基本です。これは、ジャンボ機においてもまったく同じです。ただ、ジャンボの場合、1回のフライトで守るべき制限速度は、機体の状況によって何種類もあります。

たとえば、離陸するまでの間だけでも、離陸決定速度の「V1」、機首引き起こし速度の「VR」、安全上昇速度の「V2」と、3種類もあります。また、巡航速度は、それ以上はもちろんですが、それ以下でもいけません。上空や離陸時に、エンジン不良などのトラブルで失速した飛行機は、必要な揚力が得られなくなり、大事故を引き起こす原因ともなります。絶対にミスは許されません。そこで事前にパイロットによるチェックも行なうなど、速度厳守には万全の態勢がとられているのです。

しかし、そんな大事な制限速度を「虫」に覚えさせるなんて、そんなムシのいい話があるわけが・・・

というよりも、それ以前に、多くの精密機器がひしめく、あの「狭いハイテク空間」に、もし虫がいたりしたら・・・その方が大事故の原因になりかねません。そもそも、コクピットに虫なんているわけがないはずなのですが・・・。

マッハという高速で飛行するジャンボでは、巡航速度厳守はもちろん、その読み取りも、瞬時に容易に行なう必要があります。そこで、ジャンボの速度計の外周には、手動で動かせる目盛り指示用のマークがつけられています。このマーキング用の小さな指標は、その形状や大きさから「バグ」と呼ばれ、直訳すれば・・・

そう、これが「虫」の正体なのです。

搭乗完了後、機内の総重量や離着陸時の重心の位置が記載された運航資料を持った地上係員が、コクピットにやってきます。この資料と気温・気圧など、現在の気象データをもとに、航空機閨士が計算した数種類の速度データは、小さな紙に書かれて操縦席の前に貼られます。機体の重量や気温・気圧(±)などは毎フライトごとに異なるため、当然ながら、この速度も変化します。

その後、機長と副操縦士による、計器の目盛りやスイッチなどが正しくセットされているかを確認するための読み合わせ「ビフォー・スタート・チェックリスト」が始まり、その中で、副操縦士の「エアスピード」の読み上げに対し、機長は「バグズ・セット」と応え、速度計のバグを紙に書かれた各巡航速度の目盛りに合わせます。

現在のコクピットはデジタル化が進み、液晶表示なども増えたため、こうした作業を行なわないケースも少なくありません。しかし以前は、虫が指示する巡航速度を「無視」せず守ることが、安全な運航には必要であったのです。

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