飛行機の操縦免許は一生モノではない!?
医師、弁護士など、難関を勝ち抜いて手にした「貴重なライセンス」は一生モノです。これはどの国でも変わりません。ですが、いささか疑問に思うところもあります。こうした国家試験を受けて取得した免許は、一般的に更新制度のないものがほとんどです。つまり、1回取れば、その後はよほどのことがないかぎり、免許取り消しといった処分はありません。
では、パイロットはどうなのでしょうか。この職業も、れっきとした国家資格です。ということは、やはり更新などなく、一度受かれば万々歳か、と思いきや、ちゃんと更新制度が設けられているのです。さらにパイロットの場合、車の免許のように、座ってビデオを見て、お話を聞いて「はい、お終い」といった類いのものとはまったくレベルが違います。
そう、むしろ「更新」というよりも「再試験」といったほうがいいくらいに厳しいものなのです。
民間の航空会社に勤めるパイロットは、持っている資格等により、機長(キャプテン)と、副操縦士(コーパイ=Co-PILOT)に分けられ、それぞれ、半年、1年ごとに、実技試験と身体検査を受けなければならないという世界統一の基準があります。
実技試験については、前述していますが、補足すると、シミュレーターを操縦しているあいだは、後ろの席に座った査察操縦士という試験官の目がシビアに光っており、操作中も容赦なくさまざまな質問が浴びせられるといいます。ですが、実技以上にシビアなのが「身体検査」。
当然、昔学校で受けたような、身長や体重をはかって・・・などといった類いのものではありません。ちなみに、日本の場合は、「第一種航空身体検査」と呼ばれる特別なものとなります。この試験で最も厳しいのは、検査基準が年齢によらず同じという点でしょう。
つまり、20代から定年間近のパイロットまで、基本的に同一のレべルを要求されるのです。
人間だれしも齢を重ねれば、身体が弱ってきます。いわゆる老化現象ですが、白血病や精神神経性の障害などの項目はまだいいとしても、視力や胃腸などは、年々衰えを感じるのが普通でしょう。しかし、パイロットでありつづけるためには、それではダメなのです。そこで、検診が近づいたパイロットたちは、ふだん以上に摂生に努めることとなります。
以前よりは審査内容も多少緩和されたものの、相変わらず厳しいこの検査をパスできないと飛行許可は降りません。まさに、高度1万メートルが、文字どおり「遥か彼方」となってしまうのです。こうして手に入れた、いわば「コクピットへのパスポート」ともいえる、「技能証明書」と「航空身体検査証明書」を手に、今日も彼らは大空を舞っているのです。