あやふやな慣習だけでは、パイロットの人為的事故を未然に防ぐのは難しい

2015年3月24日に発生した、ドイツのLCCジャーマンウィングス9525便のフランス山中への墜落事故の原因について、その2日後の26日、記者会見を開いたジャーマンウィングスの親会社であるルフトハンザ航空カールステン・シュポアCEOは、パイロットの健康状態は100%基準を満たしていたと述べました。

しかし、事故後の調査と回収されたボイスレコーダーの解析により、事故の原因は、精神疾患のために精神医に搭乗禁止を言い渡されていた、アンドレアス・ルビッツ副操縦士が起こした人為的なものだったことが判明しました。

ルビッツ副操縦士の自宅からは、搭乗不能であることを記した診断書が破られた形で発見されており、副操縦士は自身の病状を会社に報告していなかったと見られます。

さらには、ジャーマンウィングス側も、パイロットの精神面の検査を行っていなかったことがわかっています。4月に入り墜落現場を訪れたシュポアCEOは、そのような事実に対する言及を一切避けていますが、会社の責任も免れ得ないでしょう。

日本では、年に1回か2回の精神医によるパイロットの定期検査が義務付けられています。しかし、それだけでは精神的に問題があるパイロットのスクリーニングは万全ではないという専門家の指摘もあります。

JALでは、パイロット同士が乗務前に顔色や挙動をチェックし、異常を感じたときは搭乗を止めるという「慣習」があるそうです。しかし、それはあくまで慣習に過ぎず、強制力もありません。

実際、1982年に起きた機長の精神異常による日本航空の350便墜落事故では、事故前日にもその機長の異常行動が見られたにもかかわらず、搭乗を止められることもありませんでした。

これについて航空ジャーナリストの秋元俊二氏は、乗務中に「ひやっとした」「はっとした」ことを自ら報告しあうことで事故の芽が摘まれているので、そこを制度化した相互監視にしてしまうと、かえって信頼感をなくして報告をしあわななくなる恐れがあると指摘しています。

今回のジャーマンウィングスの例のように、職を失うことを恐れて、自分自身に異常があることを申告しないというケースもある上、自分自身を異常と自覚できていないというケースもあるでしょう。

求められているのは、乗務中の状況報告の制度化ではなく、異常を感じた同僚がいた時に専門家に報告する制度ではないでしょうか?

例えば、普段の言動から不満が多かったり、異常が見られるような人物がいた場合に、カウンセラーやソーシャルワーカーなどに報告を上げ、面談などを経て必要があれば精神医の診察を受けさせるというシステムがあれば、ある程度危険性がある人物を発見できる確率が高くなるでしょう。それは業務上の報告とは別問題であり、それを「相互監視」などと言って避けることで危険な目に遭うのは乗客の側です。

もちろんこれは、素人考えによる意見にしか過ぎないわけですが、あやふやな「慣習」に頼っているよりはましなのではないでしょうか。

そしてさらに重要なのは、責任感とプロ意識を持たせる人材教育と、乗務員の肉体的・精神的負担をケアして快適に働ける職場環境の構築なのではないかと思います。

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