ホノルル便で始まるJALとANAの争いとは?

国内の大手航空会社ANAとJAL。元半官半民の親方日の丸企業で、日本のフラッグシップキャリアだったJALに対し、後から参入したANAは常に後塵を拝してきました。

その風向きが多少変わったのが、2010年のJALの経営破綻です。これによってANAが一気に国内トップに踊り出るかと思われたものの、破綻後社長に就任した稲盛和夫氏の手腕によって、JALはV字回復。両者の競争はますます熾烈になるばかりです。

ANAの足元を見るスカイマーク

2015年、スカイマークが経営破綻しました。そのスカイマークの再建支援に名乗りを上げたのがANAでした。

ANAはスカイマーク再建の一環として、コードシェア便の運行を計画します。コードシェア便というのは一つの便を複数の会社で共同運行すること。具体的にはスカイマークが持っているチケットのうち何割かをANAが買い取り、それを販売するという形です。

このコードシェアが実現すれば、スカイマークは単独で販売するよりも収入の確保が容易になり、ANAはスカイマークの便を利用してチケット収入を得られます。両者にとってメリットがあるはずのこのコードシェア便の運行。

しかし2015年秋から交渉が平行線をたどり、とうとう2016年2月に先送りということになってしまいました。

この理由として挙げられているのが、スカイマークがANAが求める予約システムの導入を拒否したということです。つまり、再建支援といってもANAはスカイマークを自社のシステム内に取り込もうとしていて、そこにスカイマークが抵抗しているのだということです。

しかし、そうはいっても外から見ればANAはスカイマークの再建を支援してくれる「恩人」とも呼べる存在。それなのに、なぜそんなに強気で拒否できるのか?

そこにはJALの存在があります。実はスカイマークは、破綻前にJALに支援要請を行ったことがあります。それ自体は立ち消えになったものの、ANAとの交渉が不振に終わり、経営再建が危うくなった場合、スカイマークはJALに再び助けを求めるのではないかという見方も依然残っています。

スカイマークがこうしたこうもり的態度に出られるのも、保持している羽田空港の発着枠という強い武器があるから。

スカイマークに対する支配権は強めたい、しかしそのためにスカイマークが発着枠ごとJALになびくような事態は避けたい。ANAはこのジレンマに陥っています。

A380を肩代わり

スカイマークが経営破綻したのは、西久保前社長の性急な拡大路線が原因でした。特に最大の要因として挙げられるのが、エアバス社の超大型旅客機・A380の購入でした。

スカイマークはエアバス社とA380購入の契約を結んで6機も発注までしておきながら、円安などの影響で支払いが困難となり、エアバスから契約を破棄されるとともに、多大なキャンセル料を要求されることになったのです。

そもそもA380というのは、エミレーツ航空やエティハド航空、シンガポール航空といった「お金持ち御用達」の航空会社が、お金持ち向けの豪華なシートを用意していることで有名な高級機。

いわば旅客機のロールスロイスです。それをLCCとまではいかないまでも、割安チケットが売りのスカイマークが発注するというのは無謀すぎたのです。

ところが、2016年に入るとANAがA380を3機エアバスに対して発注したと発表しました。

これは、もともとスカイマークが購入するはずだった6機のうちの3機だとも言われており、ANAがスカイマークの支援をするにあたり、エアバスの協力を得るための見返りとして購入するという密約があったなどというまことしやかな噂も流れています。

確かに、そうした理由でもなければ、あまりに売れないために製造中止すらささやかれるA380をわざわざ購入する必要はありません。

ホノルル便で始まるJALとANAの争い

さてこの3機のA380は、2018年からホノルル便として利用されることが決まっています。ホノルル便というのは、戦後の海外旅行の需要の中で一貫してドル箱でした。

日本からのホノルル便のシェアはJALが37%、それに対してANAはわずか10%と大きく水を開けられています。しかし、このシェアの差は発着枠から生まれているもので、シェアを奪うために気軽に便数を増やせるというものでもありません。

そこで注目されるのが、世界最大の乗客搭載量を誇るA380。ANAは2016年4月からホノルル便にボーイング787-8を導入。ANAのホノルル便ボーイング787-8の座席数は240席。

一方A380の座席数は600弱と、ボーイング787-8の倍以上。仮にホノルル便全便をA380にして、今の搭乗率90%を維持できるという大雑把な計算をすれば、シェアは20%にまで引き上げられることになります。

それでもJALには及ばないものの、「遠く及ばない」から「ちょっと近づいた」ぐらいにはなれます。

観測筋には、A380のホノルル便投入は、エアバスとの密約を糊塗するために後付されたものだという見方もありますが、水をあけられっぱなしのドル箱便で、なんとか巻き返して行きたいというのは、ANAの本音ではないかと思うのです。

もちろん、座席が倍以上になったからといって、倍以上のお客さんが来ると限ったわけではありません。しかし、A380投入というインパクトは大きいし、どうせハワイに行くならA380を体験してみたいという人も少なからずいるのではないでしょうか?

私はこれは、後付という要素はあったにせよ、やはりANAがJALに対して本気の挑戦を挑んでいこうとしているのだと解釈します。2018年以降、日本-ハワイ間で今よりさらに熾烈な競争が起こるであろうことは容易に想像できます。

JALの隙をつくANAの戦略

ANAのJALに対する攻勢は、ホノルル便のような真っ向勝負だけではありません。JALが弱い地域に入り込むというのもその戦略の一つ。

例えば今、ANAはJALとコードシェア便を運行しているベトナム航空から、コードシェアを奪い取ろうとしています。また、クアラルンプール便、プノンペン便の就航など、東南アジア方面でのシェア開拓に力を入れています。

さらには、2016年中にはJALが撤退したメキシコ便を就航させる予定です。

今ANAが焦っている理由

このようなANAの多方面作戦は、ある意味「焦り」とも見られています。その理由は、2017年にJALが国土交通省の「監視」から脱するというもの。

スカイマークがJALに支援を求めた2014年、実はJALのほうも提携に前向でした。それが立ち消えになったのは、国土交通省から待ったがかかったからだという見方が大勢を占めています。

JALがV字回復をしたのは稲盛和夫社長(当時)の手腕によるところが大きいものの、公的資金による救済がなければそれも望めない話でした。

その公的資金の注入によって再建した会社が、他社と提携することによって規模を拡大するのは公正ではないということで、国土交通省はJALが新規投資やM&Aを行わないように監視しています。

ところがその「監視」は2017年3月まで。それを過ぎれば国土交通省もJALが他社と提携することを止めることはできません。ゆえに、ANAとしてはJALが頭を押さえられているうちに、打てる手は打っておきたいのです。

そういったわけで、今後ANAとJALの戦いは熾烈さを増していくことでしょう。

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