関空と成田におけるLCCの明暗を分けた原因は?
日本でもかなり定着してきたLCC=格安航空会社ですが、今のところ大別して関西国際空港を拠点とする派と、成田空港を拠点とする派に分かれています。関空、成田ともにLCC専用ターミナルを建設するなどLCCへのアプローチは積極的。しかし、どうもその二つの派閥に明暗が分かれてきているようです。
○好調の関空拠点LCC
関空を拠点とするLCCの代表は、日本初のLCCであるピーチ・アビエーションです。ピーチの2014年3月期決算は、前期の2倍となる305億円。2012年3月の就航から、きっちり3年で営業利益を黒字にまで伸ばしました。ちなみに黒字額は20億円で、これは2013年3月期の9億円の赤字からの大躍進です。
ピーチは2014年春頃にパイロット不足による大量の減便をせざるを得なくなったことが話題になりました。それは30億円もの減収につながっています。
しかしピーチはその後那覇空港を第2の拠点として那覇-福岡便、那覇-石垣便などを就航。パイロットも補充し、釜山や高雄便の就航、香港便の増便など国際線にも力を入れたことで盛り返しており、2015年3月期では2014年3月期から10%の増収となる見込みです。
関空には他に、香港エクスプレス空港、春秋空港日本など外資系LCCも続々と参入しています。
海上空港である関空は24時間対応であり、また、ピーチの利用者が国際線においては日本人よりも訪日外国人のほうが多いという点も躍進の要因であるようです。ピーチは今後、那覇から東南アジア方面に向けた便も増やしていく予定です。
○苦境に立たされる成田拠点LCC
成田を拠点とするLCCの中で代表的なのは、オーストラリアのカンタス航空の子会社・ジェットスターの系列で、日本航空が出資しているジェットスター・ジャパンです。ジェットスター・ジャパンは、売上を大きく伸ばしたピーチ・アビエーションとは対照的に、2014年6月期の営業利益は68億円の赤字。前期も60億円規模の赤字を出しています。
同社はこの連続する赤字の原因を、関空の第2拠点化と国際線就航が遅れたためと説明しました。実はジェットスター・ジャパンは2012年には関空を第2拠点とする予定でしたが、整備士の経験不足などを理由に予定がずれこんだとともに、18機リースしている飛行機のうち、13機ほどしか稼働させられなかったために、リース費用を回収できず赤字が拡大しました。
ジェットスター・ジャパンは2014年にやっと関空を第2拠点化、そして、2015年にようやく同社にとって初めての国際線である関空-香港便を就航させます。
成田を拠点とするもうひとつのLCC、バニラ・エアは、エアアジアとの業務提携解消後の経営刷新で、2016年までの黒字化を目指していますが、2014年3月期では売上高が前期と比べて2倍近くになったにもかかわらず、営業損益も増大しています。現状、2016年までに黒字化できるような状況とは思えません。
○成田拠点のLCCが苦戦するわけ
では、関空拠点のLCCと、成田拠点のLCCの間になぜこれだけの差ができてしまったのでしょうか?
一番大きな問題は、関空が24時間空港であるのに対し、成田は騒音対策として23時~翌6時までの飛行が制限されているということです。
LCCがLCCとして格安であるためには、様々なコストを下げる他に回転率を上げる必要もありますが、飛行制限があると限界が生じます。
利用客の利便性にも違いがあります。関空、成田ともに、近隣の主要都市からは電車やバスなどで1時間から1時間半ほどの距離にあります。
しかし、主要都市からは直行便が多く、また割安切符も発行されている関空に対し、成田の場合は主要都市から直行の成田エキスプレスは異常に料金が高く、比較的安価なスカイライナーに乗るためには、わざわざ上野か日暮里まで行かなくてはなりません。
京成電鉄は、日暮里から成田への新しいルートによってアクセス時間が短縮したことをアピールしていますが、そもそも都心から日暮里に行くには京浜東北線か山手線で行かねばならないという不便さは考慮されていません。また、上野の京成線の駅はJRからは離れているのでこちらも非常に不便です。
加えて、成田空港はそれまで国際線利用客からしか徴収していなかった空港利用料(旅客サービス施設使用料)を、2015年よりLCCの国内線利用客からも徴収することにしました。
首都圏在住者には、いくらLCCが安いとはいっても交通費や時間をかけて成田まで行くくらいなら、ANAやJALの格安チケットを買って羽田から乗ったほうがいいという意識も根強く残っています。
安く便利にという利用客目線の関空と、不便な上に利用客からさらに料金を巻き上げようとする成田空港。この両者の経営に対する根本的な思想の違いもまた、LCCの明暗に関与しているように思えます。
LCCの台頭により経営が悪化したスカイマークは、業績回復のために成田から撤退しましたが、このままでは、そのLCCもまた成田から撤退していくということになるのかもしれません。