LCCでは重要となる飛行機の回転率
2001年にはわずか8%だったLCCのシェアは、2011年には24%に達しています。
地域別に見ると、航空経営研究所の調べによると、ヨーロッパでは35%以上、北米でも28%です。しかし、アジア・パシフィック地区では18%にすぎず、日本を含む北アジアに限定すると4%だそうです。
しかし、日本では2012年がLCC元年と言われるように、アジアでもLCCが急成長しています。
LCCというと、機材は大手のお古を使う、パイロットや客室乗務員を含む従業員の給与が低く、安かろう、悪かろうのエアラインというイメージが強く、利益もぎりぎりしか出ないと見る人も多いでしょう。
しかし、LCCは低賃金でコストを抑えているのではなく、単一機材・高稼働・マルチタスクによる高い生産性の実現を通じて、単位当たりのコストを下げ、低運賃を可能にしているのです。
チケットを安く購入できるのは、確かに徹底したコスト削減の賜物です。しかし、LCCの本質は安さだけではありません。全てのLCCではありませんが、飛行機はいずれも新造機で、B747やA320の操縦経験のあるベテランのパイロットが操縦しています。
そして利益率はむしろ既存の航空会社以上なのです。例えば、2010年のエアアジア(マレーシア)の売上高営業利益率は27.1%、ライアンエアー(アイルランド)が13.4%です。一方で日本のフルサービスエアライン(FSA)に目を向けてみると、JALは13.8%、ANAは5.8%です。
LCCが世界の空でよくみられるようになったのは、FSAの半額で販売しても2倍の利益を生み出す仕組みを構築しているからではないでしょうか。ではなぜ、LCCでは安くチケットを販売することが出来るのでしょうか。
LCCのビジネスモデルは従来のものとはまったく異なっており、『空飛ぶ電車』を目指しています。このコンセプトに基づき、コスト削減ではなく「コストマネジメント」を行っているのです。
このコストマネジメントのためには、空港費、機材、人件費、燃油費、販売費などあらゆる面におけるコストを見直さなければなりません。
ここでは、空港費をみてみたいと思います。
航空機は、ある空港まで乗客を運ぶと、復路では乗客を乗せて帰ってくるのが普通です。しかし、帰りの便が出発するまでのあいだ、空港に長時間滞在すると、その分乗客を運べないことになります。1機の飛行機の運用効率を高めれば、航空会社にとっては利益が高まることに。そして、駐機時間を抑えるためには、到着後、短時間で離陸すればいいこと。
ここで、LCCの路線をみてみると、2地点間を単純往復し、飛行機は必ず同日中に出発地に戻ってきます。そのため、客室乗務員やパイロットの滞在費はかかりません。
ピーチを例にとると、就航都市は国内5都市の他、海外ではソウル、台北、香港など、関空から片道ほぼ4時間圏内に設定されています。それは、窮屈な座席で耐えられるのは4時間が限度である、という考え方に加え、4時間のフライトであれば日帰りできる、という経費カットの意味合いもあります。
この飛行機の折り返し時間の短さもLCCの特徴です。
FSAの35~40分に対し、ピーチでは25~30分を予定しています。このように、早く折り返せば、それだけ機材の稼働時間は長くなります。FSAの稼働時間が7時間に対して、ピーチは12~13時間を目指しています。
LCCの運航スケジュールを見てみると、到着から次の離陸までの時間がFSAよりも短く設定されているのがわかります。
ただここでよく問題となっているのが、遅延です。
遅延が生じなければ問題ありませんが、たとえば早朝便が遅れると、それ以降の便全てに遅れが生じます。LCCのフライト時間に遅延が生じやすいのはこのためで、日本ではLCC元年から1年しかたっていないにもかかわらず、すでにピーチがLCC市場の独占状態になっているのも、これが理由の一つです。
遅延のみが理由ではありませんが、ピーチの定時運航率は高く、就航率(運航予定便数に対する欠航便の割合)も、12年度において、ピーチが99.04%で、LCC3社を含む国内航空10社でトップです。
13年度も4-6月の就航率は99.76%と、国内トップを記録しています。
そしてジェットスターやエアアジアは、成田を拠点としているため、門限があるという空港の特色から、遅延のために欠航便が生じます。そのため、利用者も就航率の高いピーチに目を向けてしまうのです。
そして、いまそこにあるものは使う、という方針です。これは客室乗務員にも同様で、乗客が降りた後の清掃は客室乗務員が担います。
再度ピーチの例をとると、ピーチのスタッフは、ある時は客室乗務員として、そしてある時はグランドスタッフとして空港で乗客の案内をしています。
つまり、一人で何役もこなすマルチタスクが原則なのです。
さらに、空港でかかる費用も全面的な見直しがされました。
自力でバックできない飛行機は、バックの際に専用の車両を使います。しかし、費用が発生するので、滑走路に斜めづけで着陸することで、Uターンで離陸できます。
また空港では、利用料が高いボーディングブリッジ(搭乗橋)も使わず、乗客は歩いて飛行機に乗り込みますむ。さらにカウンターもフロアの端っこであったり、離発着の時間も早朝や深夜にすればコストは安くなります。このように、考えられる限りの引き下げを行っているのです。