LCCなのにプレミアムクラス?

Low Cost Carrierというカテゴリーで知られるLCC、各航空会社は、短距離路線運営が大前提です。そしてこのカテゴリーに属する航空会社はコストを抑えるために、エアバスA320、或いはボーイング737といった単一機材での運行を基本としてきました。これは、短距離であるがためにローコストを実現することが出来るからです。

しかし過去には長距離を自称していたLCCもありました。

大西洋路線では、2007年~2008年にかけてEos(米)、MaxJet(米)、Silverjet(英)のB767又はB757を使用した全席ビジネスクラスの長距離LCCがありましたが、軒並み倒産しました。また、2008年には、香港―ロンドン線に就航した香港Oasis航空(B747―400)が倒産、2012年9月からは香港航空が香港―ロンドン線A330―200が、全席ビジネスクラス便を運休しました。

これら航空会社は格安運賃のためのローコストが実現できず、また、不運にも、燃油費高騰のために、燃費性能の悪い中古機中心のオペレーションの採算が全くとれなくなってしまったのです。

長距離線に占める燃油費の割合は、短距離路線と比べて圧倒的に高くなります。運航距離に比例して燃油の消費量は当然増加し、それに比例して燃料を多く搭載するため、機体の重量が増加します。その分、燃油消費量もさらに増加してしまうといういたちごっこになってしまうのです。

営業費用に占める燃油費の割合は、短距離LCCの場合で35%~40%に対し、路線の長さが10,000km以上の場合は55%~60%に増加します。そのため、長距離便ではコストの割合が小さくなり、コスト削減の余地が少なくなるのです。

また、長距離路線で、燃油費の次に大きな問題となるのが乗務員の人件費です。長距離航行のため、客室仕様もゆったりした快適性が必要となります。機内食や機内エンターテイメントシステムや、Wi-Fiの設置も必要となるでしょう。そうすると、機内サービスのために客室乗務員も多くする必要があり、これらの全てがコスト増の要因となります。

さらに、長距離路線ではパイロットや客室乗務員がその日の内に基地に戻れなくなるため、基地外での宿泊が発生します。つまり、クルーの宿泊費が発生するほか、毎日便運行の場合は翌日の定期便を乗務する2組目のクルーを用意しなければならなくなります。つまり、長距離便の運航維持のために必要となるクルー数は、短距離便に比べて3倍から4倍にも増加してしまうことになります。

そのため、アメリカという広大な国土をもつ国でLCCを運営しているサウスウエスト航空は、直行便を飛ばすことが出来ないため、途中の都市を経由して、二つのフライトに分けて運航しています。

またジェットスター・アジア航空は保有する機体がA320のみであるため、台北経由として関西-シンガポール線を開設しました。

しかし、近年では格安旅行の人気が高まり、中・長距離路線へビジネスモデルを変更するLCCも出てきました。機材も単通路型の小型機のみでなく、より長い距離を飛べる双通路型の中型機を加えるLCCも現れています。

それがオーストラリアのJetstarやカンタス航空、マレーシアのAirAsiaXで、2012年10月にはシンガポールの航空子会社LCC、スクートが成田に就航しました。

これらのLCCが中・長距離路線に乗り出したのは、東南アジア航空業界の急激な変化です。東南アジアでLCCが誕生したのは2004年ですが、わずか10年弱でLCCのシェアは急拡大しました。2012年度末には4時間以内のフライトのうち、52%がLCCのシェアとなる見通しです。

しかし、東南アジア域内に限っていれば市場に限りがあります。そこで、スクートの例をとってみると、4時間以内のフライトでLCCが急拡大したように、4~9時間のフライトにもLCCのマーケットはある、と中長距離路線への参入を決断しています。

もともとLCCのビジネスモデルは短距離路線が常識です。航空機の空港での折り返し時間を極力短く、航空機の稼働時間を長くすることで収入を高めます。また、座席シートが狭いため、利用客にとっても短時間移動が望まれるのです。

そこで、スクートのウィルソンCEOは、適切な機材の使用と、4~9時間のフライトに限定することが欠かせない要素である、と説明しています。

一般的な短距離LCCは、エアバス320機やボーイング737機といった180席ほどの小型機を使い、エコノミークラスしか設けていません。これに対しスクートは、400席ほどの大型機B777機を使い、エコノミーと上位のスクートビズの2クラス制としました。長距離移動では、シート幅や前後幅が狭いと疲れてしまいますが、大型機のため、機内が広く、シート幅の拡大が可能なのです。

また、JetStarやAirAsiaXも既に使用してきたA320に加え、中型機のA330やA340を導入しました。そして両社ともにエコノミークラスに加え、プレミアムシートを設置しています。

では、ここで使用されているA330とはどのような機体なのでしょうか。A330では、A320で確立したフライ・バイ・ワイヤ方式(FBW)が採用されており、就航後も、高い運航効率を実現するために改良されてきました。また、余分なCO2の排出を抑えて環境保護にも貢献できる機材として、A330-300に変更する航空会社も増えています。

A330とA340の違いは、前者のエンジンが2基であるのに対し、後者では4基のエンジンを搭載していることです。そしてA340は機体の長さにより、-200、-300、-500、-600の4系統があります。

しかし、時代の流れで燃費効率のよい双発機が主流となり、2011年11月、A340の生産中止が決定されました。

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