「藻」の燃料で飛行機が飛ぶ日も近い?

近年全世界的な動きとして、航空機の二酸化炭素排出規制が強まりを見せています。日本においても、2020年には航空機燃料の10%をバイオマス燃料に代替する目標を掲げています。

しかしながら、トウモロコシやパームヤシといった従来の陸上植物を用いたバイオマス燃料では、単位面積あたりの収益性が低いため、大規模化を行うことによって環境破壊を引き起こすほか、農地を食料・飼料と奪い合うことになったり、穀物価格の高騰を招くなどの弊害がでると予想されています。

そこで今注目されているのが「藻」なのです。

最近美容に良いとしてユーグレナ(ミドリムシ)が話題になっていますが、同じ微細藻類の「藻」から抽出される油が軽質で航空機燃料に向いているらしいのです。

単位面積当たりの収益性が高く、大規模な農地も必要としない「藻」を活用したバイオマス燃料は、実用化すればまさに夢のエネルギー源となるということで、当面の目標をジェット燃料としての利用と掲げ、各社が商用利用に向けた研究を進めているところです。

こうした中で、実用化へ一歩を先を行く会社がMOIL(モイル)株式会社。2015年5月には藻からジェット燃料を生産するプラント建設に着手しており、用地は取得済みで着工を待つばかりとなっています。

MOIL社の黒島光昭社長の話によれば、「今回我々が計画しているのは、藻の培養からオイルの精製、燃料用の水素添加設備まで、一気通貫したプラントです。このような設備は日本初となります」とのことです。

これまでの藻から燃料を生み出すというプロセスは、いずれも実験室レベルで留まっていました。

実用化に向けた取り組みと一言でいっても、培養池をつくり、数年をかけて実証データを取っていくという長期的な計画で頓挫しているものも多いのが実情。ところがMOIL社のプラントでは、いってみれば、培養設備から生産設備を通してバルブを開くと実際に“使える藻の燃料”が出てくるということになり、まさに画期的といえるでしょう。

MOIL社はベンチャー企業でありながら、国立大学や中小企業の協力を得て「核となる技術の開発を愚直に行ってきた成果」(黒島社長)であり、まさに実用化への第一歩が始まったといえます。

同社は施設だけでなく、「藻」自体にも優位性を持ち合わせているとのことで、一般的なミドリムシの油脂含有率が25%程度であるのに比べ、MOIL社の藻は油脂含有率が70~80%と極めて高いとされています。

黒島社長によると「この藻を得たことで、プラント建設への道筋が見えたのです。いくら環境にいいと言っても、価格競争で勝てなければ市場には参入できませんから」とのこと。また、「当社の藻は、倍加速度(藻が細胞分裂する速度)が約1.7日と、とても速いのが大きな強みなのです。プラントでは、実験室を飛び出して大規模にこの成長効率を維持することを実証して行くつもりです」といいます。

同社プラントの絵図面では、藻を充填したパイプを連ねた培養設備と精製設備が併設された未来的な空間が広がっています。

いざ建設となると課題も多かったようで、培養池は農地でも構わないが、ジェット燃料をつくるためには水素の添加設備も必要となるにもかかわらず、その施設は農地には建てられない上、消防・防災などの障壁もあるなど、一貫した生産設備が建設に至らなかったのはこうした困難があるからだといいます。

MOIL社黒島社長は、「藻から精製するオイルは無限です。化石燃料がいつ枯渇するかはわかりませんが、有限であることは間違いない。我々は、資源のない日本を産油国にしたいのです。そのためには、培養から燃料生産まで可能なプラントのひな形を世に示す必要がある。日本は、高い技術力がありながらもスピード感で世界に負けてきた。今回のプラント建設は、日本が勝つために先手を打ったのです」と、藻のオイルを「日本の底力」として、産業を支えていきたい考えを示しています。

MOIL社の藻から精製したオイルは既にアメリカのASTM規格にも合格し、燃料としての実用に適合するお墨付きを得ています。同社では、早々に空港への燃料販売を始める計画としており、今後の展開から目が離せません。

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