旅客機の機体に穴が空いても安全に飛行できる!?

旅客機がハイジャックされ、犯人は銃を持っていて、機内で発砲したものだから、機体に穴をあけてしまって、たいへんなことに・・・。そういう映画やテレビが、昔からたくさん作られていますが、現実には一度もそんなことになったという話を聞いたことがありません。

でももし実際にそういうことが起きたら、機体はどうなるでしょう。

銃弾によって機体にあいた穴から、機内の空気が吸い出されて、機内の気圧が急激に下がり、機内にあるいろいろな物が外へ飛び出してしまう。これではたちまち旅客機は墜落してしまう。これも映画でよくやっていますから、迫力あるシーンを見ていると実際そうなるのではと思ってしまいますが、実はあれ「単なる演出」。

穴が一つ開いたくらいでは、旅客機は墜落しません。旅客機はそうそう簡単には飛行に支障が出ないようにつくられているからです。

たとえば、パイロットが機体に穴が開いたことに気づかず、同じ高度を同じ速度で飛びつづけていたとします。そうすると機内外の気圧差によって、機体に開いた穴から破損が広がり、穴が大きくなり、最終的には乗客が外に吸い出されたり、機体が墜落したりする危険が生じるでしょう。

しかし実際には、そうはなりません。

万一、機体に穴が開いたときは、それをコックピットで把握できるしくみになっているからです。

機体に穴が開いたことを知ったパイロットは、直ちに安全な気圧差になる高度(約3600m)まで機体を降下させます。そこまで降下すれば、機体の中と外の気圧差が少なくなり、もう大丈夫というわけです。この手順を「緊急降下」(エマージェンシー・ディセンド)といいます。

機体の損傷が起こった過去の事故例をみても、機体が穴かなにかで破損したとたん、機体が墜落したというような話はありません。緊急降下した後、近くの飛行場などに緊急着陸して危機を回避した、という話ばかりです。

小さな破損であれば、機体がすぐ破裂したり、すぐ墜落したりするなどということはまず起こらないのです。十数分、場合によってはもっと長く飛びつづけることができるます。

そもそも、旅客機はひとつの部材が破損しても、他の部材がそれを補い、全体構造まで影響しないよう設計されています。小さな破損が全体の致命的な破損につながらないよう、飛行不能にまでならないようにつくられているのです。

こうした構造を「フェイルセーフ構造」といいます。

「フェイル(fail)」は「壊れる」、「セーフ」(safe)は安全という意味で、「壊れても安全な構造」と訳せます。

たとえば、ジャンボ機(ボーイング747)がエンジンを4つも積んでいるのは「フェイルセーフ構造」です。1基が壊れても、残りの3基で飛行をつづけることができます。車輪が1脚に2~4個(ボーイング777では6個)もついているのも1個がパンクしても残りの1~5個で補えるからです。

このほか、コックピットから動翼などを操作したり、着陸装置を作動させるときの動力となる油圧系統も3~4系統に分類されており、1系統が故障しても、残りの2~3系統でカバーできます。さらにその油圧で動かす垂直尾翼の方向舵や、水平尾翼の昇降舵は2分割されていて、1枚が機能しなくなっても、もう1枚が役目をこなせるようになっています。

究極の「フェイルセーフ」は、パイロットが2人以上配置されているということです。1人が突然体調を崩すなどして、操縦桿が握れなくなっても、もう1人がいますから、飛行が続行できます。

旅客機は何段階にも分かれた「フェイルセーフ」によって、安全に飛行できているのです。

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