空港で銃器・煙火、スピーカー。これって何のため?

「ハドソン川の奇跡」というのをご存知ですか?

2009年に起こった飛行機事故を総称して、世界中のニュースで報じられたので、聞いたことのある人も多いと思います。

この事故は2009年1月、気温氷点下6度のニューヨーク市で、ハドソン川に155人が乗った旅客機が不時着水した事故です。

USエアウェイズ1549便がラガーディア空港を離陸した直後、エンジンが2つ同時にバードストライクによって停止し、飛行高度が維持出来なくなりました。機長は空港へ引き返すことが困難と判断し、マンハッタン島などの市街地を避けて、機体をハドソン川に導いたとされています。

低高度の飛行ではレーダーから飛行機が消失してしまうため、空港管制は周囲の航空機へ1549便の目視チェックを要請し、観光ヘリ2機もこれに応じました。

その後、急降下しつつ失速を避け、ジョージワシントンブリッジをぎりぎりで回避しながら高度上げにより減速し、異常発生から約3分後、1549便はニューヨーク市マンハッタン区とニュージャージー州ホーボーケン市の間に流れるハドソン川へ着水しました。

ニューヨーク市中心部のマンハッタン島西側を流れるこのハドソン川は、着水現場付近では川幅が1キロ以上あります。

不時着水を決定した後、高度を下げる経路が必要だったため、旋回しましたが、このことで着水進入方向と川の流れが一致し、極僅かですが機体の衝撃が抑えられました。機体の姿勢も水面に対し水平に近かったため、機体分解も避けられました。スムーズな着水により、機体損傷は、尻餅による後部壁下部の一部だけでした。

そのため、乗客たち全員が迅速に機内から脱出シューターおよび両主翼に避難することが可能となったのです。

しかし、事故当時は真冬で、氷点下6度・水温2度の中で着水・浸水したため、乗客は無事着水した安堵もつかの間、すぐに客室内への冷水の浸水でずぶ濡れになり、機体が沈没するという恐怖にみまわれつつも、着水の衝撃で停電し、真っ暗な中を屋外へ緊急脱出しました。

結局事故機は着水から約1時間後に水没しましたが、この機体水没までの約1時間というわずかな時間で、全員が救出されました。

回収されたフライト・データ・レコーダーを解析した結果、事故の原因はエンジンに複数のカナダガンが飛び込んだことによるとのことでした。飛び込んだカナダガンにより、一部のエンジン内部が致命的なダメージを受けたため、エンジンを再起動できなかったようです。

実際、2台のエンジンからは、鳥を吸い込んだ痕跡が確認されています。

このように、航空機が鳥と衝突することを「バードストライク」と呼び、航空の発達とともに世界的に問題となっています。

日本においても、毎年のように年間1,000件を超えるバードストライクが発生しています。特に離着陸回数の多い羽田空港においては、日本における発生件数の約1割を占めているそうです。

しかも、このバードストライクの発生件数はここ数年、増加傾向にあります。その増加の原因はまだ明確にはされていませんが、航空需要の増大による飛行回数の増加や、空港周辺の鳥の増加の可能性などが考えられています。

このようなバードストライクに対して、現在、国土交通省は以下のような対策を行っています。

まず、バードストライク情報の収集です。

これは、定期航空運送事業者の協力を得て、バードストライク『衝突の可能性があったものの、衝突に至らなかった事例(ニアミス)を含みます』のデータを収集・分析し、各空港における鳥衝突対策のための基礎資料として全国の空港管理者に配布しています。

また、空港における防除作業として、主に国が管理する空港のうち、バードストライクが多く発生している空港において、バードパトロール(この作業専門の要員を空港に常駐させ、年間を通じてパトロール(定期巡回)を行い、銃器(実砲や空砲)・鳥類駆逐用煙火・ディストレスコール・スピーカー(鳥が天敵に捕まった時に発する悲鳴)等の機器を組み合わせて防除する)方式による防除を実施し、それ以外の空港においては随時防除を実施しています。

他にも、鳥の生態に関する専門家や航空会社等で構成する鳥衝突防止対策検討会を航空局に設置し、だいたい年1回、バードストライクの分析と対策を検討しています。

では、バードパトロール方式による防除の効果はどうでしょうか。

国が管理する空港において、昭和57年からバードパトロール方式による鳥の防除を行っているそうですが、平成21年度時点で、導入空港は計18空港あります。バードパトロール方式は最も効果がある防除方法とされており、実施空港と未実施空港の衝突率(離着陸1万回あたりの衝突回数)を比較すると、実施空港においては約半分の衝突率です。

今後の取り組みとしては、諸外国で導入されている検知機器(鳥検知レーダー等)について、運用要件や効果、安全面等に関する調査を行い、導入へ向けて検討をするようになっています。

また、バードストライクの全体の発生件数のうち約4割が夜間に発生しており、夜間に使用可能な防除機器の導入についての検討が予定されています。

なお、平成22年度から深夜便が増大する羽田空港においては、夜間における鳥類の生態調査を行い、より効果的なバードパトロールの実施計画が策定される予定です。

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