飛行機がIT化しても結局動かすのは人間という現実

かのライト兄弟が人類史上初めて有人動力飛行に成功したのは1903年の12月17日でした。これは歴史上の偉大な成功であるとは言えますが、しかしその時に成功した飛行時間は1分にも満たず実用的とは言えないものでした。

ただ、どんな技術でも最初はそんなものです。そこから改良と実験を繰り返して実用化していくものなので、最初の飛行実験が実用的ではなかったからといってライト兄弟の価値が落ちるということはありません。

その後の飛行機の発展はめざましく、ライト兄弟の初飛行からわずか6年後の1906年にはすでにフランスの飛行機ブレリオXIがドーバー海峡横断を成功させ、1915年にはドイツが世界初めての戦闘機・フォッカーE.IIIを開発して第一次世界大戦に投入しました。

その後はプロペラ機の時代が続きますが、第二次世界大戦後の1947年、ジェット機の始祖とも言えるロケットエンジン機・ベルX-1が出現し、その後はジェット機の時代となって今日に至ります。

さて、飛行機の操縦というのはずっとパイロットの目視とパイロット自身の操作により行われてきました。パイロットは主翼にある補助翼=エルロンで機体の傾きを、水平尾翼にある舵=エレベーターで機首の上下を、垂直尾翼にある舵=ラダーで機体の向きを手動で調整し、飛行機を飛ばしていたのです。

しかし、飛行機の性能や製造技術が上がって、巨大な旅客機や高速のジェット戦闘機が出てくると人間の力だけでは飛行機を操縦しきれなくなってきました。そうした中で生まれたのが「飛行制御コンピューター」です。

手動操縦の飛行機は操縦席と補助翼と舵とは直接つながっていました。しかし現在コンピューター制御されている飛行機の操縦席で行う操作は全て飛行制御コンピューターへの指令であり、指令を受けたコンピューターが補助翼や舵を動かしています。

飛行制御コンピューターは、民間の旅客機では操縦の制御だけではなく、例えば飛行機を危険な角度に操作するような動作があった場合には操縦桿を重くしてパイロットに警告するような機能を持っています。

しかし、飛行制御コンピューターの恩恵は民間機よりも軍用機、特に戦闘機が強く受けています。

民間旅客機とジェット戦闘機の違いは様々にありますが、最も大きいのはそのフォルムです。民間旅客機が機首が丸く、大きくなっているのに対して、戦闘機は機首が細く尖っています。

紙飛行機を思い起こしてもらうとわかりやすいと思いますが、紙飛行機を長く飛ばすコツは、先端を折り曲げて少し重くすることです。そうすることで飛んでいる状態が安定し、普通に三角形に折った紙飛行機より長く飛びます。

本物の飛行機もそれと同じことで、民間旅客機は機首のほうを大きめにすることで機体を安定させ、安全な航行を確保しています。しかし、機体が安定すると機動性は悪くなります。

戦闘機は安定性よりも機動性のほうが大切なので、機首を細く、重心が機体の後ろに来るように作ってあります。ところが、意図的に安定性を犠牲にしている戦闘機は手動操作では機体を飛ばすこと自体困難を極めます。特にステルス戦闘機の場合は機動性に加えステルス性も重視しなければならないのでより安定性が削られることになります。

これらの戦闘機が無事にパイロットが意図する通りに飛ぶことができるのは、飛行制御コンピューターが微妙な調整を行い、機体を最適に制御しているおかげなのです。

また、戦闘機の高速機動を行っている時はパイロットは平衡感覚を失って、どちらが地上かわからなくなってしまうことがあります。そのような場合に備え、戦闘機には飛行制御コンピューターが機体を水平飛行に戻すためのスイッチも備えられています。

さて、民用・軍用かかわらず現代のジェット機には欠かすことができなくなっている飛行制御コンピューターですが、コンピューターが正しく飛行を制御するためには機体の速度、角度、水平方向などを正確に把握していなければなりません。

そのために重要なのが飛行機の速度や高度、仰角などを計測する各種センサーです。これらのセンサーの情報は飛行制御コンピューターによって統合され、飛行機を安全に飛ばすとともに、失速しそうになったときには操縦桿を振動させる「スティックシェイカー」というシステムによりパイロットに警告を与えます。

ただ、現在は結局最後に飛行機を操縦するのは人間です。だからあくまでパイロットが主であり、コンピューターはサポートに過ぎません。それゆえに、飛行制御コンピューターはパイロットに違和感を与えないような挙動をするようにプログラミングされています。

また、パイロットの操作ミスへの対応も重要です。

例えば1988年に起きたエールフランス機の墜落事故は、データの入力システムがわかりにくかったための入力ミスが原因だと言われており、1994年に起きたチャイナエアラインの墜落事故では、副パイロットの操作ミスがキャンセルできなかったことが原因でした。

どちらの事故もエアバス社の機体を使っていましたが、現在ではこのような痛ましい大事故からの教訓も生かされています。

航空機の高度なIT化は確かに大きな恩恵をもたらしています。しかし、人間が使うのだという前提で作らなければ人の命を奪うような事故は防げないのかもしれません。

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