世界的免税店の躍進は『おもてなし』が鍵?

香港を拠点とする世界的な免税店グループのDFSは、2015年5月にシンガポール・チャンギ国際空港の第3ターミナルに、ワインとスピリッツの専門店をオープンさせました。この店舗は、同社にとってワインとスピリッツ(蒸留酒)の販売店舗の旗艦店となります。

DFSはこれに先立ち、4回にわたってシンガポールにおいて「マスターオブ・ワイン&スピリッツ」というイベントを開催してきました。このイベントには、DFSのスタッフが実際に世界中の酒蔵を訪問し、集められたワインとスピリッツが集められ、紹介されています。

つまり今回のワイン&スピリッツ専門店のオープンは、数年に渡る綿密な計画の上に成り立っているものだと見られます。

この店は、空港の店舗としては珍しい2階建て。テイスティングスペースも用意され、400以上のブランドの商品(ワイン、スピリッツに加えタバコも販売される)を免税価格で購入できるとのこと。また、シンガポール独立以前の1887年創業の老舗・ラッフルズ・ホテルとコラボしたバーや、DFSメンバーの「ロイヤルT会員」のみが利用できるラウンジ等、空港とは思えない大人の空間となっている様子です。

DFSの免税店は、その性質上主に空港に開設されているわけですが、日本には空港の外にあるDFSの店舗があります。それが、沖縄県の免税品ショッピングセンター「Tギャラリア 沖縄」です。この店舗は、2003年に開業した「ゆいれーる」のおもろまち駅に隣接し、2004年に「DFSギャラリア・沖縄」としてオープン。2014年に「Tギャラリア 沖縄」としてリニューアルしました。

オープン当時、駅から直通の一等地に県内企業を差し置いて海外企業のショッピングセンターができたことは、かなりのインパクトがあったものの、一定数の雇用を創出したとして、県民にも受け入れられています。また、残念ながら現在はなくなってしまったものの、オープン当初3階にあった世界各国の料理を食べられるフードコートは、地元住民にかなり人気でした。

本来免税品は、出国手続きをしなければ購入できません。それなのに、DFSが空港外で免税品を販売できるのは、2002年に制定された沖縄振興特別措置法の特定免税店制度による特例で、いわば経済特区の一種ともいえます。

そもそも、沖縄振興特別措置法は、1972年の沖縄返還に伴い制定された沖縄振興開発特別措置法が、2002年に廃止になったことで代替法として制定されたものです。

アメリカ統治時代の沖縄では、本土からの客に免税品が人気であり、免税品販売は沖縄経済にも寄与していました。本土復帰で日本の税法が適用されることで、それまで免税品販売で潤っていた経済を冷え込ませないために、本土復帰後に施行されていたのが、免税に準じる「観光戻税制度」です。

それが2002年に沖縄振興開発特別措置法とともに廃止され、かわりに特定免税店制度が施行され、それを機にその翌年のゆいれーるの開業に乗じてDFSがショッピングセンターを建設しました。

「Tギャラリア 沖縄」で免税品を購入できるのは、沖縄県外に出る予定がある人のみで、出発便の便名に加え、住所と氏名を告げる必要があります。ただし、特定免税店制度のおかげで、国内移動であっても県外に出る人であれば購入できるようになっています。

手荷物預かりカウンターや、空港への送迎などといったきめ細かいサービスは旅行者に好評で、そのような徹底した「おもてなし」戦略により、沖縄県内の業者から客を奪ったという側面もあります。沖縄県にとっては、観光業における黒船来襲だったと言うこともできるかもしれません。

DFSがアジアの各地でこれだけ躍進しているのは、日本の企業よりもしっかりした「おもてなし」のためかもしれません。

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